前回は市場と価格について説明したが、市場が成立するためには、一定の参加者が必要である。誰もほしがらないものを売ろうとしても売れないし、逆に自分しかほしがらないものはまず売っていないから買えない。予測市場も同じである。その予測テーマに関心のあるユーザが一定数存在しなければ存続が難しい。(もっとも、その最低限の母数はいわゆる世論調査や社会調査に求められる回答数に比べるとはるかに少なく、数十人の参加者がいれば十分に市場は成立する。)
そのような複数のユーザの行動から、予測や経営に有用な情報を導き出すという点で、予測市場はしばしば「集合知」の一つとして取り扱われることがある。そこで、今回は集合知と予測市場の関係について整理しよう。
「集合知」とは何か?
集合知について説明することは難しい。集合知の「知」がなんなのか?たとえば、知識なのか、知能なのか、知恵なのか?ということすら、必ずしも定まっているものでもない。
一般に知識というのは、それを使う人から独立しているものを意味する。平たく言えば、辞書や辞典に記述できる性質のものであると言って差し支えないだろう。インターネットで辞書といえばWikipediaが有名だが、これは集合知の事例として最も広く知られているもののひとつである。Wikipediaは、誰にでも項目追加や書換えができる百科事典であり、多少の誤りがあってもその誤りを直す無名の人々の営みによって一定の水準が担保されていると考えられている。Wikipediaの特徴は多岐にわたる記事数であり、2012年12月1日現在で83万8482件の記事が公開され、その数は年々増加してきている。