開発、管理、仲介など
さまざまな不動産事業

 これらの業務が楽しいと思えるのは、自分の人生経験が生かせるからに他ならない。実家や友達の家に行った経験、観光で目にした建築物、旅行で宿泊したホテル、食事だけでなく雰囲気やおもてなしを享受したレストラン、豊かな経験があるほど提案力の引き出しは増えていくことになる。こうした開発に関わる仕事は創造的で非常に面白い。

 しかし、不動産業といってもいろいろある。ここまで書いてきた仕事は開発の仕事になる。開発以外では、不動産業には主に管理と仲介がある。管理はストック産業で、既存顧客から一定の売り上げが見込め、長期スパンで収益を改善しようとするのに対して、仲介はフロー産業で、成約しないと売り上げはゼロになるため、常に目先の売り上げに追われることになる。一般に「不動産屋」と呼ばれるのは仲介をしている者を指す。

 仲介は典型的な営業職で、結果を出せば評価され、時間の自由度がある。ある程度仕事ができるようになると、若くても稼ぎは他業界よりいい方なので、それに目がくらんで業界に足を踏み入れる人がいる。だが、同じような成約で数を重ねても常に行き当たりばったりなので、経験を重ねていっても収入は頭打ちになっていく。

 他業界の人が不動産業者を評して、「みんなプレーヤーで、マネジャーになるような成熟が見られない」とか、「不動産業の社長は他業界では部長止まり」とか聞くことがよくある。不動産業者は一匹おおかみで、仕組みでもうける構想力や実行力がないということだ。だからこそ、それをやゆして「業者」呼ばわりされることになる。

 それに加えて、不動産仲介業者の多くが持ち合わせる悪い癖がある。それは不動産業界に20年以上携わる私の経験上、「うそをつく」ことだ。私は長年、不動産業界に近いところにいるが、業界に友達は数えるほどしかいない。うそをつくのには訳がある。不動産の顧客は優柔不断で無知だからこそ、うそをついてでも成約させないと売り上げゼロで飯が食えなくなるからだ。

 不動産コンサル業をしている弊社でも仲介部隊を持っていた時代がある。コンサルフィーよりも不動産売買の成約時に物件価格の3%の仲介手数料をもらった方が、売り上げが増える場合もある。コンサルティングによって物件の売却価格を最大化できれば、顧客と当社の双方にとってシナジーがあると当初は思っていた。

 しかし、誰もコンスタントに事業化するビジネスの仕組みづくりができなかったので、私が集客や成約を支援しなければならなかった。そして、コンサル業務と仲介業務では仕事の仕方も文化も相いれなかった。

 コンサル業務は相手の立場になって「取引をしないこと」を選択する場合もある。一方、仲介業務は物件が売れれば仲介手数料が入るため、社内でも平気でうそをついて自己保身に走り、売り上げ目標を達成しようとする姿は残念でならなかった。

 結局、今は社内に仲介部隊を持たず、有料で顧客のコンサルをしながら、成約する際には外部に仲介をさせてバックフィーでコンサルフィーを補完する仕組みにしている。こうなると会社として個別の売り上げ目標は追わず、コンサルに専念することができるようになり、業務遂行の矛盾がなくなる。