老人ホーム、通院、告別式…「死ぬ間際」にかかるお金のリアル

──エッセイの中でも驚いたのが、お父様の「死ぬ間際」についてのお話でした。「命の終わりにはお金がかかる」という言葉が、衝撃的で。そんなにたくさんお金がかかるなんて私も思っていなかったので、ハッとさせられたんです。

野沢:いや、何かきっかけがないと、考えないですよね。私も父が病気になって、「介護が必要かもしれない」という話になって、自分でいろいろ計算してみてようやく、「こんなにお金かかるの?」って気がつきましたもん。

 家族に囲まれて手を握ってもらい、そのときが来たら静かに空に登っていく。死ぬ、命が終わる瞬間というのはそんな感じのことだとイメージしていたけど、現実はそんな美しいだけのことじゃなくて。そこに至るまでにはお金がかかるんですよね。

「命の終わりにはお金がかかる」親の死で直面した介護の壁野沢直子(のざわ・なおこ)
1963年東京都生まれ。高校時代にテレビデビュー。叔父、野沢那智の仲介で吉本興業に入社。91年、芸能活動休止を宣言し、単身渡米した。米国で、バンド活動、ショートフィルム制作を行う。2000年以降、米国のアンダーグラウンドなフィルムフェスティバルに参加。ニューヨークアンダーグラウンドフィルムフェスティバル他多くのフェスティバルで上映を果たす。バラエティ番組出演、米国と日本でのバンド活動を続けている。現在米国在住で、年に1~2度日本に帰国してテレビや劇場で活躍している。著書に、『半月の夜』(KADOKAWA)、『アップリケ』(ヨシモトブックス)、『笑うお葬式』(文藝春秋)がある。

──そうですよね。

野沢:母は、私が20代半ばの頃に他界していて。でも、父はずっと元気だったんです。母が亡くなってからわずか半年後、外国に別の家庭を持っていることが発覚するという事件もあって。「生涯現役」を地で行くような、私より元気な人でした。

 結婚も何回もしていて、最後に付き合っていた彼女がいろいろ面倒を見てくれていたので、まず「父の介護」と言われても、全然ピンと来なかった。自分ごととして考えられていなかったし、父が弱るということ自体が、信じられなかったんです。

 父が入院して、弟ともいろいろ相談していたら、入院費、手術代、介護にかかるお金と、現実が迫ってくるようになった。父がアルコール依存症だったので、「まず療養所に入れなきゃいけないかも」「自宅で介護するなら、子どもたちをアメリカに置いて日本に来るしかないのか……」「老人ホームは高すぎる」とか、調べれば調べるほど、試算すればするほど、「お金がかかる」という避けられない事実がリアルになってくる。

 病気とは全く無縁な人だったから誰もそれに対する蓄えがなかったし、もちろん本人にも全然お金がなくて。介護保険を担保にお金を借りちゃってたので、保険、打ち切られちゃってたんですよ。

──ええっ!

野沢:それを、区役所で聞いたときの絶望感とか、忘れられないですね(笑)。「とにかくお金がかかる」っていう現実が一気にワーッと押し寄せてきて。結局、そんなこんなでバタバタしているうちに、父は亡くなったんですけど。もちろん、お葬式や遺品整理のお金もかかって。