東京・上野にある「展覧会 岡本太郎」の看板「展覧会 岡本太郎」が東京・上野で開催中 Photo by Kenichi Tsuboi

東京都美術館(東京・上野)で「展覧会 岡本太郎」が始まった(12月28日まで)。大阪中之島美術館に続く「東京展」の後は、「愛知展」が開催される予定だ(愛知県美術館、2023年1月14日から3月14日まで)。1970年に開催された大阪万博のシンボル「太陽の塔」は誰もが知る岡本太郎の作品だろう。70メートルの巨大な縄文土器が、平坦な金属の屋根を突き抜けるようにそびえ立ち、圧倒的な存在感で驚かせた。あれから52年、太陽の塔は万博記念公園で保存され、内部の造形「生命の樹」は整備されて2018年から一般公開されている。岡本太郎の芸術は生誕111年を経て、現在も世間を挑発し続けている(文中敬称略)。(コラムニスト 坪井賢一)

「芸術は爆発だ!」は1981年の流行語に

 岡本太郎(1911~96)の作品は、日常生活で目にすることが多い。都市景観の中に設置されているパブリックアートが全国約70カ所にあるからだ。東京・原宿のダイヤモンド社から徒歩10分圏内にも、旧こどもの城の「こどもの樹」(1985)、2008年に渋谷駅に設置された幅30メートルの大壁画「明日の神話」あり、毎日のように眺めていた。NHK放送センターには「天に舞う」(1974)がある。

 筆者が住む町にも「躍動の門」「五大陸」(1993、浦安市)が設置されており、心を豊かにしてくれた――と言いたいところだが、全く反対で、見れば見るほど胸騒ぎを覚え、静かな生活のリズムはかき乱され、頭の中にはストラヴィンスキー(1882~1971)の「春の祭典」のような変拍子の音楽が大音響で鳴り始める。

「芸術は爆発だ!」という岡本の言葉は、1981年に流行語となった。当時、日立マクセル製ビデオテープのテレビコマーシャルで叫んだのである。40年以上見ていなかったが、展覧会会場でモニターから当時のCFが流れていた。白いグランドピアノの鍵盤を岡本太郎がアドリブで激しくたたくと、白い天板に極彩色の絵が点滅する。この情景は真上から撮影されている。10秒ほどで音楽が終わると顔がアップになり「芸術は爆発だ!」と叫ぶ。ああ、そうだった。ピアノを弾いていたのだ。今でもインパクトは大きい。思わず5回ほど見てしまった。

「展覧会 岡本太郎」は英語で“Okamoto Taro : A Retrospective”、つまり「回顧展」なので、彼のパブリックアートだけしか見ていない人にとって、この芸術家の全体像と変遷を知ることができる絶好の機会である(入場券事前購入・日時指定制)。

「太陽の塔」の10年後に大流行語を生み、バラエティーやドラマに出演してテレビスターになった岡本太郎に、その4年後の85年、インタビューしたことがある(「ダイヤモンドBOX」1985年7月号)。ちょうど「こどもの樹」が完成し、設置されたころだった。

 次ページからは、当時の取材を振り返りつつ、記事を再構成してみたい(かぎかっこ内の談話は記事から引用)。