川島 はい。意欲もあり、「乗っている」状態をつくりだしていて、盛り上がっている会話なのに、全然共感が起こっていない。オンラインでは共感が起こらないということが科学的なエビデンスを伴って明らかになりました。私が言いたいのは、これは、単なる脳科学者のエキスパートオピニオンではなく、オンラインコミュニケーションに限界があることが見えたというデータ・エビデンスであるということです。

「オンライン会議は脳にとって質の悪い紙芝居」脳科学者が訴える危険性秋山進(あきやま・すすむ)プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役
リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業からベンチャー企業、外資、財団法人など様々な団体のCEO補佐、事業構造改革、経営理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。京都大学卒。国際大学GLOCOM客員研究員。麹町アカデミア学頭。

秋山 私も仕事で研修を実施すると、オンラインでは参加者が物理的な「安全圏」にいて、乗ってこないことが多いので、工夫して、「ではここでみなさんに聞いてみようかな」とあえて間を取って指名したり、参加者をAとBのグループに分けて、賛成と反対で議論してみてくださいといって、部族間闘争意識を駆り立て、緊張感を持たせたりしています。錯覚にすぎないかもしれませんが、ちょっとだけ研修の質が改善される気がします。やはり人間は安全空間にいると、感情が働かないものなのでしょうか。

川島 通常のオンライン会議はそうですね。

秋山 参加者は意識としては参加しているが、脳が参加していない。

川島 脳は違和感を検知します。脳波、視線が合わないことと、音声と画像がずれていることで違和感を抱いているのです。対面で話しているのに下を向かれると興味を持たれていないと思いますよね。それがオンラインだと常に起こっている。脳にとっては非常に大きなストレスです。ただし、これは相手の目を見ているような位置にカメラを設定すれば解決します。また6Gくらいの高速のネットワークで音と映像がほぼ一致し、1秒間にモニター(ディスプレー)画面が何回書き換わったのかという、リフレッシュレートがもっと上がれば、脳もだまされてリアルと検知するかもしれません。ただ、一段上のブレークスルーが起きなければ現状の技術では到底無理です。

秋山 逆に言うと、オンライン会議は、特段の相互作用の必要がない、単純な連絡の場合は十分用をなすということでしょうか。

サムシング・エキストラは
対面でなければ生まれない

川島 そうですね。人と人の関係性や共通のベースがないとできないこと、たとえば、ブレストは無理です。ブレストが必要な職種は多く、エンジニアはリモートワークで大丈夫というけれど、行き詰まったときには議論でブレストが起こって、解決へとジャンプできる。そういうことをエンジニアはみんな経験しているはずです。果たしてそれがリモートでできるのか。