日本新聞協会は1月15日、消費税増税を前に「軽減税率の適用」を求める声明を発表した。欧州でも米国でも新聞は消費税ゼロあるいは軽減税率が適用されている、世界の瓦(かわら)版事情はこんなものだ、というのだ。しかし大手新聞は「消費税導入で健全財政を」ではなかったか。増税を主張しながら、自分たちには「例外」を求める。これで読者を納得させられるだろうか。

 この日、日本新聞協会の秋山耿太郎(こうたろう)会長は永田町の自民党本部を訪れ、石破幹事長に声明文を手渡した。秋山氏は朝日新聞の会長だが、現役時代は自民党を担当する政治記者だった。政治部長、社長と昇進し一昨年から業界の頂点に立ち、通いなれた自民党本部に陳情で訪れたのである。

背に腹は代えられず

 朝日新聞は2012年5月20日の社説で「消費増税と低所得階層」を論じ「軽減税率は将来の課題に」と訴えた。

 社説を要約すると「消費税が8%に上がるからといって軽減税率を導入するのはまだ早い、10%に上がってから考えればいい」というものである。根拠として「高所得世帯まで恩恵を受ける。何を軽減税率の対象とするのか、線引きも簡単でない」と指摘し、「さまざまな業界から適用要請が相次ぐのは必至で消費税収が大幅に目減りしかねない」と釘を刺した。

 そのころ新聞協会は、消費税の例外品目に新聞を指定してもらおうと動き始めていた。軽減税率は微妙な問題なので、各紙とも論説で触れることにためらいがあった。その中で朝日が「将来の課題だ」と退けたのはひとつの見識ではあったが、「協会長をしている社長(当時)が、社説で恥をかかされた」などと、からかい半分の世間話が、経営の周辺でささやかれた。もちろん論説委員室が叱責を受けるような口出しはなかったが「経営の事情と社説の方向が逆ではないか」という声も出ていた。

 紙面では「消費増税やむなし」「公平な受益と負担を」などと、増税路線に理解を示す新聞社が、自分たちを増税の枠外に置こうとする軽減税率を主張する。社説が掲げる「正論」を振り切って、自民党への陳情を始めた背景を「背に腹は代えられず、という新聞業界の事情がある」と経営者のOBはいう。

 いま新聞は存亡の危機だというのだ。