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ビジネスの落とし穴

『いまさら断れない』
~最初はこんなはずじゃなかったのに~

嶋田 毅 [グロービス 出版局長兼編集長、GLOBIS.JP編集顧問]
【第11回】 2008年10月14日
著者・コラム紹介バックナンバー
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 今回も、前回に引き続き、交渉に関連する落とし穴について紹介していく。テーマは、「一貫性へのこだわり」だ。ケースでは、最初その気はなかったのに、いつの間にか相手の大きな要望を受け入れざるを得なくなった例を紹介する。

【失敗例】本意ではなかった単身赴任
「気がついたら引き受けていた」

 大阪に本社を置く惣菜メーカーZ社の女性社長、江坂氏の現在の悩みは首都圏、特に東京地区でのシェア低下であった。もともと競争相手が多く、厳しい戦いを強いられてきたのだが、東京に本社を持つ競合のX社とY社が、「関東地区のシェアだけは死守しなくてはならない」と、地元重視の営業戦略を打ち出してきた影響をもろにかぶった格好だ。

 江坂氏はテコ入れのために、経験豊富な営業部長を東京営業部に送り込みたいと考えていた。その第一の候補が、現在は本社の営業管理室長を務める中津氏である。いまは管理部門で仕事をしているが、もともとはやり手の営業マンとして鳴らし、Z社の北海道営業部長、九州営業部長なども歴任、着実に実績を残してきた。社内からの信任は非常に厚い。

 江坂社長はぜひ中津氏に東京営業部長を引き受けてもらいたいと考え、それとなく意向を聞いてみたのだが、どうも本人は東京赴任に消極的である。

 「いまはまだ元気だが、親が年老いており、あまり遠くには離れたくない」
 「2人の子どもが続けざまに受験するため、何かとサポートが必要」
 「長らく地方を回ってきたので、そろそろ地元である大阪に腰を落ち着けたい。マイホームのローンも残っているので」

 もちろん、江坂社長としては、業務命令で東京赴任を命じることも可能である。しかし、本人が乗り気でないところに強引に辞令を出すのでは本人の士気にもかかわるし、得策ではないとの思いがあった。

 「何とか彼を説得できないかしら…」

 江坂社長は、腹心の取締役、梅田氏を呼び、相談してみた。梅田氏は、中津氏とは長い付き合いで、過去に直接の上司部下の関係になったことはないが、いろいろと仕事の相談をすることが多かったこともあり、何かと頼りにしている存在だ。

 「確かに、いきなり本意でないことを命じるのはよくないでしょう。彼の性格を考えれば、徐々に巻き込んでいくのがいいと思います。まあ、私に任せてください」

 「梅田さんにそう言ってもらえると助かるわ。よろしくお願いね」

 「了解です。少しばかり時間はかかるかもしれませんが、お任せください」

 その数日後。梅田氏は中津氏を呼び、こう指示を出した。

 「中津君、知っての通り、いま東京地区は大変な状況で、何とかテコ入れをしたい。現場は日々の仕事に忙殺されてなかなか腰を落ち着けて策を練る時間がないから、管理室長である君のほうで、少し対案を練ってくれないかね。社長以下、皆の了承は得てある」

 「了解しました。東京を何とかしないとうちの業績がおかしくなりますからね」

 そして2週間後、中津氏は、東京テコ入れ策を江坂社長をはじめとする経営陣に報告した。江坂社長は言った。

 「なかなかいいわね。さすが中津室長。すぐに実行しましょうよ。ついては、ぜひ東京営業部への指示出しと主要メンバーのコーチングをお願いするわ。必要あればどんどん出張に行って」

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嶋田 毅 [グロービス 出版局長兼編集長、GLOBIS.JP編集顧問]

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社、主に出版、カリキュラム設計、コンテンツ開発、ライセンシングなどを担当する。現在は出版、情報発信を担当。累計120万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」や、「グロービスの実感するMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。
グロービス経営大学院や企業研修においてビジネスプラン、事業創造、管理会計、定量分析、経営戦略、マーケティングなどの講師も務める。また、オンライン経営情報誌 GLOBIS.JPなどで、さまざまな情報発信活動を行っている。


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