前回は、「議論の脱線」による時間の浪費という落とし穴について紹介した。今回も引き続き、会議運営に関連する落とし穴について紹介していく。テーマは、『社会的手抜き』だ。「社会的手抜き」という言葉は聞きなれない人もいるかもしれない。しかし下記の事例を読んでもらえれば、あなたの周りでもよく起きている現象であることを実感いただけると思う。

【失敗例】コンプライアンス委員会のケース
「議論の質が高まらない」

 神田デザイン印刷は書籍や雑誌、販促ツールなど、さまざまな紙媒体のデザインや印刷などを手がける中堅企業である。最近ではWEBのデザインも手がけている。もともと小さな個人事務所であったのが、ここ数年急拡大したということもあって、ルールや作業手順の整備・標準化は遅れており、仕事のやり方なども属人的な部分が多い。

 そうした中、近年のコンプライアンス(法令順守)に関する意識や法的リスクの高まりもあって、遅まきながら神田デザイン印刷でも、コンプライアンスを組織に徹底させるべく、ルール作りとその組織への浸透を進めることになった。部門横断のタスクフォースが作られ、上野、田端、大塚、目白の4人がメンバーに選ばれた。

 本日は、顔合わせも兼ねたキックオフミーティングである。タスクフォースの目的やスケジュールを共有するとともに、目指すべきコンプライアンスのレベル感や、今後の作業分担などを決めることになっている。進行役を務めるのは、管理室長で今回のタスクフォースのリーダーを務める田端だ。最初の目的やスケジュールの共有まではよかったのだが・・・。

田端 「さて、今回の目的などは概ね共有されたと思う。引き続いて、目指すべき具体的なレベル感についてラフに決めてしまおうと思う。特に、データの管理や盗用防止などについて議論したい。一応、僕の方でたたき台は用意したが、先日メールで連絡した通り、皆もアイデアを持ってきてくれたと思うので、まずそれをシェアしようか」

 田端はたたき台の資料を配りながら、切り出した。早速大塚が口を開いた。大塚はデザイナー出身で、多くのデザイナーを束ねる立場にある。田端とは長い付き合いだ。

大塚 「悪い悪い。何か考えてこなくてはと思ってはいたけど、ちょっと仕事が忙しくて…。田端のたたき台を元に議論させてくれ」

 田端は一瞬顔をしかめて何かを言おうとしたが、すぐに営業課長の目白が続いた。

目白 「実は僕もあまり考えてきてはいないんだ。ただ、いま、田端さんの資料をパラパラと見た感じだとかなり完成度が高いようだから、ほとんどこれを基本に微調整すればいいんじゃないかな」