業界特有の複雑な要求に応えるため
カスタマイズを重ねた旧システムが「限界」へ
服を通して、人と組織の心を動かす——。コーポレートサイトにこのメッセージを掲げ、オフィスユニフォームを、ただの「制服」から「企業の顔」へと昇華させてきた会社がある。1906年創業で今年120年を迎えたボンマックスだ。
オフィス、ホテル・飲食、医療・介護など働く現場のあらゆる場面を彩るユニフォームを手がけ、グループ連結売上高は113億円(2026年1月期)、業界トップクラスのシェアを誇るオフィスユニフォームの老舗である。全国約2000社の販売代理店を通じてユーザー企業に商品を届けており、毎日の出荷先は約1000件、点数にすると1万点を超える日もある。年間の販売点数は約500万点に上る。事業の柱は二つある。主力のユニフォーム事業と、アーティストグッズや企業の販促品といったオリジナル商品を手がけるアパレル&グッズ事業だ。今回刷新した基幹システムは、この両事業を支えている。
ユニフォームビジネスの販売・在庫管理は一般的なアパレル以上に複雑だ。カタログに掲載する定番品だけでも、品番、色、サイズを掛け合わせたSKUは約3万。そこに、企業ごとに企画・生産する別注品も加わる。
サイズ展開も幅広い。一般衣料ならS〜XL程度であるのに対し、ユニフォームでは5号から21号まで、あるいはキッズサイズから5XLまで9サイズ程度を展開する商品もある。さらに既製品で対応できなければ、袖丈などを調整した「別寸品」を用意しなければならない。
「ユニフォームは、企業の顔として毎日、長期間着用されるものです。追加注文を受けたとき、新しく納めた商品と以前に納めた商品の色が違っていては困ります。耐久性も重要ですし、欠品はできる限り避けなければなりません。一般の衣料品とは異なる要求に応える必要があります」と、ボンマックス常務取締役商品本部長 兼 管理本部副本部長の外川翔一郎氏は話す。
ボンマックス常務取締役
商品本部長 兼 管理本部副本部長
外川翔一郎 氏
こうした複雑な業務を支えるため、ボンマックスは2017年、現場のさまざまな要望を盛り込んだ基幹システムを導入した。多数のサイズを横1列に表示する帳票、複数のチャネルから注文が入った際に在庫を瞬時に引き当てる仕組みなど、ユニフォーム業界特有の商習慣や同社独自の業務に合わせ、数多くのカスタマイズを施したシステムだった。
「当時は、みんなの夢を詰め込むように、現場から出てきたさまざまな要望を盛り込みました。欲しい機能を一つのシステムの中に全部入れて実現したようなところがありました」と、受注業務を担当する営業本部営業管理室の窪田愛氏は言う。
ボンマックス営業本部 営業管理室
窪田 愛 氏
保守期限とブラックボックス化が重なり
「1社依存」からの脱却を決断
ところが、時間の経過とともに大きな問題が浮上した。システムを開発した会社が事業を継続できなくなり、別の会社が保守業務だけを引き継ぐことになったのである。引き継いだ会社は、標準パッケージの基幹システムの上に、どのような意図で、どのようなカスタマイズが加えられたのか、その詳細を十分に把握していなかった。
「問題が発生したり、改善したいことが出てきたりしても、保守会社は自分たちで作ったシステムではないので、簡単には手を付けられない。社内にも導入当時の事情を詳しく知る人が少なくなり、資料を頼りになんとか保守を続けている状態でした」(外川氏)
年月を重ねるうちに、全体像がつかめず、容易には改修できないものへと変わっていた。独自のカスタマイズが同社の強みを支える一方で、それを維持・更新できる人がいなくなるという、ブラックボックス化に陥っていたのである。
しかも、旧システムの保守が24年9月末で終了することが決まった。複雑な業務を支えてきた基幹システムをそれまでに刷新しなければならない。もちろん従来のサービス水準を落とすことはできない。ボンマックスは、システムを根本から見直す決断を迫られた。
「以前のシステムは一つの大きな仕組みの中で全てを実現していました。ただ、1社に全てを委ねると、どこかを変えたいときに全体を入れ替えることになりかねません。そこで今回は、分野ごとに最も適したパートナーを選び、それぞれのシステムを連携させる形にしました。必要が生じた部分だけを見直せる、長く使い続けられる構成を目指したんです」(外川氏)
21年、同社は外川氏をプロジェクトマネージャーとし、約10人のメンバーで「BON+PJ(ボンプラスプロジェクト)」を立ち上げた。旧システムで集約されていた機能を、販売・在庫管理、WMS(倉庫管理システム)、債権・債務の三つに分け、複数のベンダーのシステムを連携させる構想だ。その販売・在庫管理を担うシステムとして選ばれたのが、アイルの「アラジンオフィス」だった。
「何年も当社にいたかのようだった」
業界への深い理解が選定の決め手に
ボンマックスは外部コンサルタントの支援を受け、販売・在庫管理システムの選定では3社を比較した。機能、費用、納期、標準機能で対応できる範囲などを一覧表にして検討したが、決め手となったのは数値では比較できない部分だった。
「業務をいろいろお伝えした時の理解度が、まず圧倒的に違いました。まるで何年も当社にいたかと思うほど業務をよく把握していて、深いところまでヒアリングをされていたのが印象的でした。アパレルへの理解、ユニフォーム業界特有の業務への知見が、他社とは全く異なっていたと思います」(外川氏)
選定のポイントとしてもう一つ外川氏が挙げるのが、「透明性と体制」だ。旧システムがブラックボックス化した苦い経験から、今回は「中身が見えること」を徹底的に重視した。
「アイルさんは要件定義書から基本設計書まで、きちんと成果物として残してくださいます。また、提案段階でPM・PL・メンバーの体制が明示されていました。提案を担当された方がそのままプロジェクトを通じて関わり続けてくれたことも、大きな安心材料でした」(外川氏)
要件定義が始まると、現場からは、使い慣れた旧システムの操作性や帳票をなるべく残してほしいとの要望が多く寄せられた。そこでアイルは、「アラジンオフィス」の標準機能を生かしながら、旧システムの良い部分を可能な限り継承し、ボンマックスの競争力に直結する部分を見極めてカスタマイズを加えることを提案した。
「最初は『できるだけパッケージに業務を合わせたい』というご意向を伺っていました。一方で、受注周りはボンマックスさまの強みや個性そのものだとすぐに分かりました。そこで、強みの部分はカスタマイズしてでも従来のサービスレベルを維持した方がいいと率直にお伝えすると、すぐにご理解いただき、じゃあここはカスタマイズしてでも今のレベルに近づけよう、という建設的な会話が提案段階からできました」。アイルのシステムソリューション営業の矢島健太郎氏は、当時をそう振り返る。
例えば、受注が集中したときにも在庫を即時に正しく引き当てる仕組みは、欠品を避け、販売代理店に正確な回答を返すために欠かせない。他社のシステムとの連携が不可欠で、「アラジンオフィス」の標準機能ではカバーできないため、カスタマイズが必要だった。
この複雑なシステム開発を担ったのが、アイルのシステムソリューションサポートの爲貝亮太氏だ。「在庫の引き当てに関しては、EDIやECといった複数チャネルからのデータが同じタイミングで入ってくる中で、全て正しく引き当てられるようにする必要がありました。発注予定の情報も加味して日付を横展開し、最終的な納期を算出するようなロジックも含め、細かい部分が積み重なって、全体としてはかなり難度の高いカスタマイズになりました」(爲貝氏)。
アパレル・ファッション業界での導入経験を豊富に持っているアイルだからこそ、この複雑なカスタマイズにも対応できたのである。
図1:「アラジンオフィス」と他のシステムを連携させたボンマックスの新たな業務基盤拡大画像表示
プロジェクトの難しさは、販売・在庫管理システム単体の開発にとどまらなかった。「アラジンオフィス」を他のベンダーが開発を担当するWMSや債権・債務システムと連携させ、一つの業務基盤として動かす必要があったからだ(図1)。そうした場合、システムとシステムの境界では互いが“お見合い”となって課題が見逃されやすい。
「アイルさんは『ここから先は当社の領域ではありません』と線を引きませんでした。境界部分の問題も自分事として巻き取り、システム全体を見て『ここにも懸念があるのではないか』と提言してくれた。その姿勢が本当にありがたかったですね」(外川氏)
一方、アイルのシステムソリューションサポートの内山智仁氏は「複数システムの連携では、担当の境界にある問題が十分に認識されないまま本番を迎えてしまうこともあります。今回はボンマックスさまが、WMSや債権・債務システムのベンダーさんとも直接顔を合わせて密にコミュニケーションを取る場をつくってくださったことが、本当に大きかったと思います」と感謝の言葉を向ける。
新倉庫の稼働と同時に迎えた
「後戻りできない」本番切り替え
プロジェクトがハイライトを迎えたのは、24年8月——システムの切り替えと、物流倉庫の移転・統合が重なったタイミングだった。
ボンマックスでは、岩手県内の二つの物流倉庫を陸前高田市に建設した新倉庫「滝の里物流センター」へ統合し、新システムと新倉庫を同時に本格稼働させることになった。
2024年8月に稼働した陸前高田市の新倉庫「滝の里物流センター」
通常のシステム更新なら、問題が起きた際に旧システムへ戻して業務を続ける並行稼働も考えられる。しかし、新倉庫は旧システムとは接続していない。新システムが動かないからといって元に戻すことはできなかった。
「もし新しいシステムがうまく動かなければ、物流は完全に停止してしまいます。システムが止まったら、作業するための帳票も出せず、荷物そのものが出せなくなる。ものすごい緊張感がありました」。ボンマックス商品本部生産部ロジスティクス課の山田浩貴氏は、そう振り返る。
ボンマックス商品本部 生産部 ロジスティクス課
山田浩貴 氏
切り替えに向けて、アイルとボンマックス、そして連携する全ベンダーは、毎日朝会と夕会を開き、移行手順書に基づいて分刻みで進捗を確認し続けた。「毎週のように社内でミーティングをして、本当に今の状況で切り替えに踏み切れるのかを議論しました。事前にリハーサルを重ねて、できることは全部やり切った上で本番に臨みました」(内山氏)。
こうして迎えた8月のシステム切り替え日——システムは止まらなかった。切り替え直後から通常の出荷が動き始めた。「システム的には本当にうまくいったと思います。物理的な引っ越しの混乱はありましたが、それすら、システムが動いていたからなんとかなった。あの切り替えが今回のプロジェクトのハイライトだったと思っています」(外川氏)。
こうして、3年に及んだプロジェクトは無事成功した。外川氏は振り返る。
「プロジェクトの最中は、双方とも余裕がなかったはずです。こちらの要件が途中で変わることもありましたが、アイルさんは嫌な顔一つせず、向かい合うというより同じ側に立って課題に当たってくれました。皆さんの人柄と会社の文化の両方だと思いますが、それが大きな安心感になり、私たちのプレッシャーも和らぎました」
それはアイル側も同じだった。
「ご要望の中には、実現が難しくお断りしたものもありました。ただそのたびに、ではどうすれば良いかを一緒に考えていただいた。また、現場からの不安や要望を私たちにそのまま投げることなく整理してくださったので、開発に集中できました。全てのベンダーが同じゴールを見て進めたプロジェクトだったと思います」(内山氏)
アイルのシステムソリューションサポートの内山智仁氏(右)と爲貝亮太氏(左)
帳票準備が最大50分→10分以内に
データ連携でミスと残業も大幅減
新システム稼働後、現場では明確な効果が表れている。物流では、出荷指示後に大量のデータを処理し、ピッキングなどに必要な帳票を準備するまで、旧システムでは40~50分ほどかかっていた。それが「アラジンオフィス」とWMSの連携により、5~10分程度で出荷作業に取りかかれるようになった。
「以前は一つのシステムの中で大量の処理を走らせていたため、帳票を出すまでに時間がかかっていました。今は外部のWMSと役割を分け、必要なデータを連携することで、毎日の処理が劇的に速くなりました」(山田氏)
「当社では午前9時と午後1時に出荷を締め、午後1時に締めた分も当日中に出荷します。ドライバー不足などを背景に集荷時間が早まる中、出荷準備時間の30分以上の短縮は非常に大きいですね」(外川氏)
受注部門では、これまでアナログで受けていた注文について、販売代理店からデータで受け取り、そのまま「アラジンオフィス」に取り込めるケースが増えた。入力作業と転記ミスを減らす効果は大きい。
「現在もファクスによる注文はありますが、データを頂けるお客さまについては1件ずつ入力する必要がなくなり、作業時間を削減できました。その分、残業時間も短くなっています」(窪田氏)
効果は人事面にも及ぶ。受注部門では退職者が1人出た後も人員を補充せずに業務を回せている。プリントや刺しゅうなどを行う2次加工部門でも、以前は「もう1人採用しなければ回らない」と考えていたが、システム刷新後は増員せずに対応できているという。
システムのブラックボックス化も解消された。プロジェクトを通じて業務要件や仕様が整理され、稼働後も課題管理の連絡板を残して、ボンマックスとアイルが継続的に情報を共有している。以前の保守会社との関係とは大きく異なり、困り事を相談し、共に改善できる体制ができた。
プロジェクトで深まった信頼関係
末永いパートナーとして次の進化へ
現在、アイルの窓口担当として日常的にボンマックスとやりとりしているのが、システムソリューション営業の喜納高太朗氏だ。プロジェクト本体には関わっていないが、初めてボンマックスを訪問した時の印象は今も鮮明に残っているという。
「最初に伺った時から非常に話しやすく、会社全体から漂ういい雰囲気が目に見えて分かりました。プロジェクトの過程がうまくいったからこそ生まれた関係なのだろうと感じています。多くの企業を訪問する中でも際立った雰囲気でした」(喜納氏)
矢島氏も同じ思いを抱いている。「提案段階から、まるでユーザーさんとやりとりしているかのようにオープンで建設的にお話しいただきました。だからこそ、内山を含む専門チームを早い段階から投入して、しっかりとした提案ができた。それが信頼感につながったと感じています」。
アイルのシステムソリューション営業の矢島健太郎氏(左)と喜納高太朗氏(右)
ボンマックスは今後、これまで中心だったBtoBに加え、一般消費者向けのECや、日本文化を生かしたアパレル・雑貨の海外展開も模索している。さらに、商品作りだけでなく、非アパレル企業に対して、企画、生産、販売、配送、代金回収までをワンストップで支援できるパートナーを目指している。だからこそ、基幹システムを安心して任せられ、その先の変化も相談できる相手の存在が重要になるという。
「当社は、お客さまから『この会社と一緒にやっていきたい』と思っていただける会社を目指していますが、私たちにとってアイルさんがまさにそういう会社です。『アラジンオフィス』は当社のシステムの心臓部ですから、まずは末永くお付き合いしたい。その上で、AI活用や新しい価値の創造についても、アイルさんからの提案なら聞いてみたいと思います。一緒に進化していけたらありがたいですね」(外川氏)
「1社に全てを依存しない」という思想から始まった基幹システム刷新プロジェクトは、結果的に「最も信頼できる会社と、深く長く組む」という新しい関係性をボンマックスにもたらした。後戻りできない切り替えを共に乗り越えたチームは今、次の進化へ向けて静かに、しかし確かに歩みを進めている。
株式会社 アイル
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