日本航空の稲盛和夫会長と大西賢社長Photo:JIJI

日本航空(JAL)が経営破綻に見舞われた際、再建を担った「経営の神様」稲盛和夫氏だが、かつてJALを心底嫌っていたというのは有名な話だ。そんな稲盛氏だが、見事にJAL復活の立役者となって称賛を浴びる。しかし、その裏で「JALずるい論」と「利益至上主義」という批判に悩まされもした。再建の過程で「ピンチはチャンス」と説き続けた稲盛氏はどのように対処したのか。(イトモス研究所所長 小倉健一)

JAL嫌いで有名だった稲盛和夫氏に
再建の白羽の矢が立った

 2010年1月に会社更生法の適用を申請し、経営再建を進めた日本航空(JAL)は、稲盛和夫氏を会長に迎え、破綻から2年7カ月でのスピード再上場を果たした。12年3月期決算では、純利益が1866億円、営業利益が2049億円と、いずれも過去最高を更新。同じく過去最高だった全日本空輸(現ANAホールディングス)の営業利益970億円をはるかに上回った。

 JALの再建を担った稲盛氏だが、JALを心底嫌っていたことはよく知られていることだ。再建を担うまではライバル社(おそらくANA)を利用していたことを明言していた。また、会長就任直後は幹部を「上から目線だ」と切り捨てていた。

 しかし会長に就任してからの稲盛氏は、「経営の目標は、社員の物心両面の幸福を追求すること」として、「私はご覧の通り高齢ですが、皆さんの幸せを追求するために精いっぱい頑張るつもりです」と宣言した。この「社員の幸福を追求する」という言葉に対しては、破綻して損害を出した株主や金融機関を刺激するからという理由で非難する声もあったが、稲盛氏がブレることはなかった。

「稲盛さんの経営はマジックでもなんでもない。本気で会社を自分の子どもだと思っている。愛情の深さが違う。我が子のためと思うから、万全の自信を持ってモノが言える。サラリーマン経営者では、なかなかああは言えません。この3年間で命を縮められたかもしれないが、まさに起業家の生きざまをみせていただいた」(植木義晴・JAL社長〈当時〉、日本経済新聞13年2月23日)

 稲盛氏の経営手腕を高く評価する声が上がる一方で、常にその成功が嫉妬を生み、批判にさらされてきたのも事実だ。JALの再建から最高益更新、再上場達成までの過程において、稲盛氏が批判にさらされた内容は、大きく二つある。

 一つは、ANAや自民党から糾弾された「JALはずるい論」。そして、もう一つは「利益至上主義」だ。

 この二大批判に対して、「経営の神様」と呼ばれた稲盛氏でも葛藤や苦悩があったようだ。どのように臨み、対応したのかを見てみよう。