会場では50年前の記憶をたどりながら歩を進めると、グランドピアノが設置されたスペースに入る。背景は広い窓で、外は東京の上空である。

 ピアノの周囲には楽譜と歌詞を書いた原稿が100枚ほどバラバラに展示されていた。自筆譜だが原稿そのものではなく、拡大されたカラーコピーで、拡大されていたので細部までよくわかった。そしてピアノの上の空間にも楽譜や歌詞を書いた原稿用紙が舞っている。

自筆譜や歌詞の原稿が展示され、舞っていた自筆譜や歌詞の原稿が展示され、舞っていた Photo by K.T.

 最初に目が留まったのは、「中央フリーウェイ」(1976)の自筆譜。非常に低い音域で書かれていた。メモではなく、最終的な清書に近いものだろう。他の楽譜や歌詞を見て歩くと時々、月刊誌「カーグラフィック」のロゴ入り原稿用紙に書いてある歌詞を見ることができる。これは、ユーミンの夫君である松任谷正隆氏が1970~80年代の手書き時代に使っていた原稿用紙で、「カーグラフィック」への寄稿時のものだろう。

 会場内では自分のスマホから専用のウェブサイトにアクセスすると、ユーミン本人が多様な展示物を解説する「音声ガイド」を聞きながら見て回ることができる。

 ユーミンがデビュー50周年を迎えた2022年、記念のベスト盤(3枚組)「ユーミン万歳!」が発売されてアルバムチャート1位を獲得した。これにより1970年代から2020年代まで、10年ごとの各年代で1位を獲得した唯一のアーティストとなった。非常に幅広い年齢層のファンを持つユーミンは、まさに前人未到の領域を突破し、とてつもない存在だ。

 50年間も継続してヒット曲を量産し、他の歌手にも楽曲を提供し続けているのだからすごい。展覧会というより博物館(MUSEUM)と名づけたのも、50年間の知的生産物の質と量を丸ごと提供しようという発想なのだろう。