後半ATに待っていたドラマ
勝利のカギは「ロングスロー」

 最終ラインから放たれたロングボール。必死に背走する清水のキャプテン、CB鈴木義宜へエリキが激しくプレッシャーをかける。次の瞬間、鈴木がバランスを崩して転倒。こぼれ球を拾った大卒ルーキー、MF平河悠(山梨学院大卒)がスピードに乗って権田をかわし、無人のゴールへ流し込んだ。

 しかし、11分後に追いつかれる。先述のDF・池田が負傷退場し、代わりに投入されることになったDF藤原優大の交代準備が整わない。10人での戦いを余儀なくされた状況で、カウンターからゴールを陥れられた。
 
 そのまま1-1で折り返した後半。町田イレブンの動きは、良い意味で前半とは明らかに違っていた。

 強度の高い守備で清水の強力攻撃陣にほとんど決定機を作らせず、攻めては3本ものシュートが枠をとらえかけたのだ。

 だが、そのシュートはいずれも右ポストに阻まれた。

 優位に試合を進めながらも引き分けるのか。こんなムードが色濃く漂ってきたアディショナルタイムの6分、ラストワンプレーでドラマを超えるようなシーンが訪れた。

 自陣からパスをつなごうとした清水の攻撃を遮断した町田は、逆にパスをつないだ。その末に、攻め上がっていた新加入組CBチャン・ミンギュ(前ジェフ千葉)が右足を一閃(いっせん)。強烈なシュートが突き刺さった直後に、町田の勝利を告げる主審の笛が鳴り響いた。

 試合後の公式会見。清水戦に照準を定めてきた黒田監督が、感無量の表情を浮かべた。

「高校サッカーから来た私にとっても、本当に高校サッカーで全国優勝したぐらいの感動と喜びがあったというか。それぐらいうれしいゴールであり、勝利でした」

 清水戦ではこれまでは2、3回にとどめてきたロングスローを7回にわたって敢行した。劇的な決勝点をさかのぼれば、左サイドから翁長が投げ込んだ7回目のロングスローに行き着く。

「ロングスローを左右からどんどん投げ込むことによって、フォワードを含めた相手の全員を(守備のために)一度ゴール前まで戻す作業ができる。ウチのゴールが入る、入らないは別として、これはわれわれにとってすごく大きな効果がある。

 どのような流れになろうと、相手に何を言われようと、ルールが成立している以上は相手の嫌がることをやろう、というのが今日のテーマでした。それがジャブとして少しずつ効いてきて、最後のミンギュの決定打を生んだと思っています」

 高校サッカーの延長と揶揄(やゆ)されるケースも少なくないロングスローをジャブ、もっと言えば捨て石として清水を疲弊させ、さらにセカンドボールも拾いやすい状況を手繰り寄せたのだ。