いざ開幕すると、破竹の6連勝を含めて、開幕から7戦連続無敗をキープ。首位を快走するだけでなく、そのうち6試合でクリーンシートを達成する堅守が注目された序盤戦で、黒田監督はこんな言葉を残している。

「勝つ、イコール、守れることだと思っています」

 10人が退団し、19人もの選手が加わったオフの補強に指揮官のイズムが反映されていた。まずセンターバック(CB)には高さと強さ、そして自陣だけでなく敵陣でも存在感を放つ選手が加わった。

「勝つ、イコール、守れる」を
体現するための戦術とは?

 例えばJ2のブラウブリッツ秋田から加入し、新生・町田の第1号ゴールを決めた池田樹雷人(じゅらと)。身長186cm、体重82kgの巨躯(きょく)を誇る26歳のCBを黒田監督はこう語る。

「青森山田高校じゃないですけど、球際で強さを発揮して、空中戦や(攻撃時の)リスタートにも強いセンターバックは、私がチームを作るにあたってどうしても欠かせませんでした」

 最前線のFWには個の力にたけ、攻守両面で相手の脅威になる外国人選手を加えた。

 昨年のカタールワールドカップでゴールを決めたオーストラリア代表のミッチェル・デューク、横浜F・マリノス時代にJ1で21ゴールを挙げたブラジル出身のエリキが、先発の2トップに定着している。

 32歳のデュークはJ2のファジアーノ岡山から、28歳のエリキは中国の長春亜泰から加入。2ゴールの前者、チーム最多の6ゴールを挙げている後者を、指揮官は別の意味でも貢献していると語る。

「デュークとエリキは常に相手の最終ラインの背後を狙い、脅威を与え続けます。相手のディフェンス陣は必ず警戒するのでバランスを崩し、後ろ向きに走らされる結果として体力を消耗します」

 正確なプレースキックを武器とするボランチ、下田北斗をJ2の大分トリニータから獲得した補強も踏まえれば、プロの舞台で黒田監督が標榜(ひょうぼう)するスタイルがおのずと浮かび上がってきた。

 屈強な最終ラインで相手の攻撃陣をつぶし、前線では外国人選手を中心に執拗にプレッシャーをかけ続ける。中盤の2列目の選手は愚直にアップダウンを繰り返して攻守両面で関わり、体力が限界に達すればリザーブと交代する。

 そして、セットプレーを中心にゴールを狙っていく。

 しかもセットプレーは、直接FKや左右のCKだけではない。青森山田高の代名詞となり、やがて高校サッカー界全体にも広まっていったロングスロー。CBを中心に高さと強さを兼ね備えた選手が多いプロの世界では通用しないとして、なかなかお目にかかれない“飛び道具”を、ここぞという場面で攻撃の中に組み入れた。