拷問、虐殺、性的暴行…ウクライナ戦争は「ロシアが悪い」と言い切れる理由プーチン大統領 Photo:Contributor/gettyimages
*本記事は本の要約サイト flier(フライヤー)からの転載です。

おすすめポイント

 ロシアが悪い。少なくともこの戦争においては。

 これは本書の著者がテレビでコメントする際、絶対に崩すことのなかったスタンスだ。戦争と聞くと「戦争そのものが悪」「どちらにも非がある」「政治家に巻き込まれる民衆だけが被害者」というように、善悪論を避けようとする人も多いのではないか。もちろん著者もウクライナが全て善だとは言っていない。ウクライナにも責めを負うべき点はある。それを踏まえた上でなお、「ロシアが悪い」と言っているのだ。ウクライナ戦争が、まったく正当性を欠いた「侵略」だからである。

拷問、虐殺、性的暴行…ウクライナ戦争は「ロシアが悪い」と言い切れる理由『ウクライナ戦争』 小泉 悠著 筑摩書房刊 946円(税込)

 一方を悪と断じることに抵抗がある人もいるかもしれない。だが「悪」と断じなければいけない場合もある。なぜなら、その行く末には日本の平和が脅かされる可能性まで横たわっているからだ。

 本書は2021年の春の軍事演習について論じるところから始まる。それに伴うロシア、ウクライナ、そして西側(特にアメリカ)の対応について記述し、そこから開戦前夜、戦争の経過というようにこの戦争の軌跡を説明していく。そして、クラウゼヴィッツの戦争論やハイブリッド戦争などを紹介しながら、この戦争の捉え方について解説する。プーチン個人の思惑についての著者の洞察も興味深い。人によっては耳慣れない軍事用語も多いが、一通り読めば、この戦争に対する解像度がぐっと上がるはずである。それは、私たちの未来を見据える大きなヒントにもなるだろう。(流 隼人)