箸で持ち上げたうどんの麺写真はイメージです Photo:PIXTA

埼玉発祥の関東ローカルチェーン「山田うどん」は、埼玉県民で知らない人はいないほど圧倒的な知名度を誇る、まさに地方豪族とでもいうべき飲食店だ。しかし、それだけ身近にもかかわらず、実は県民すら知らない「特殊山田」が存在する。

※本稿は、北尾トロ・えのきどいちろう『愛と情熱の山田うどん まったく天下をねらわない地方豪族チェーンの研究』(河出書房新社)の一部を抜粋・編集したものです。

チェーン店だが一律じゃない
「いつもの!」に答える山田

 山田うどんの本質はその多様性にある。社団法人日本フランチャイズチェーン協会(JFA)の立ち上げに関わり、関東に大規模展開するチェーン店でありながら、例えば接客マニュアルの類を持たないことは相当なことじゃないだろうか。マニュアル対応でない以上、店舗ごとのカラーや、パート女性の個人スキルで雰囲気が千変万化するんだなぁ。

 これは客の側からいうと、ぬくもりのある人間的な対応をしてくれる(僕はたまにマニュアル対応のハンバーガーチェーンのカウンターで、自分は自販機を相手にしてるんだろうかと思うことがある)という意味になる。僕らはカウンターで「いつもの!」と注文する運転手さんを見かけて、山田うどんすげぇと感心するが、別に本社がそういう指導をしているわけでなく、それはパートさんの柔軟性なのだ。あるいは「青葉町店(現在は閉店)の店員さんはうどんを届けるとき、箸箱を開けてくれる」といった声を聞くが、それはパートさんの人柄なのだ。山田うどんは店内のディスプレーから接客応対まで、各店舗の自由裁量にゆだねられている部分が大きい。

 つまり、「同じ山田はひとつとしてない」のだ。僕ら山田を愛する者は、未知の店舗を訪ね歩き、その微細なディテールの違いを楽しむ観察者でもあるだろう。

 けれども、微細とは言い難い、強烈な違いとしか言いようのないものを見せてくれる「特殊山田」が存在するのだ。