植田日銀の政策修正、慎重であいまいな姿勢が裏目に出る理由Photo:Bloomberg/gettyimages

植田和男日銀総裁がYCC(イールドカーブ・コントロール)政策の柔軟化に動いた。ところが、政策修正後は円安に動いている。中央銀行の慎重で曖昧な姿勢は、別のリスクを浮上させることにもなる。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

ビールは一杯2840円!
エンゼルス戦で円の弱さを痛感

 筆者は7月上旬から半ばにかけて、出張でロサンゼルスとニューヨークを回った。

 ロサンゼルスに着いた日、ドジャースタジアムでドジャースvsエンゼルス戦が行われていた。チケットは公式価格でも驚くほど高かったが、投打の二刀流で大活躍中の大谷翔平選手を見るために思い切って観戦してみた。

 すると、高いのはチケットだけではなかった。スタジアム内で売られている名物のホットドッグは円換算で1360円(1ドル=142円、税込みで以下も同様に算出)、生ビールは一杯なんと2840円である。東京ドームのビール一杯900円が相当安価に感じられるほどだ。

 ところが現地の野球ファンは全く意に介さず、高価格に見えるホットドッグやビールは飛ぶように売れていた。7回に大谷選手が見事ホームランを打ったのでビールのおかわりを考えたが、2杯で合計5600円強にはどうしても財布のひもが固くなり断念した。改めて今の円の悲しいまでの弱さを痛感した出来事だ。

 身近な例は他にもある。大戸屋ごはん処の「しまほっけの炭火焼き定食」は東京で1050円だが、ニューヨークのタイムズスクエア店は5860円だ(チップ、税込み)。これでは高くて入れないので、外からのぞいてみた。以前は日系企業の駐在員やその家族が大勢いたが、今は日本人客の姿は少なく、地元の人々が和食を楽しんでいた。

 ミュージカルも高い。「ライオンキング」の公式価格の最高値席(週末)は、東京は1万3000円だが、ニューヨークは7万4580円だ。

 なぜ日本人から見て、米国の物価がこれほどまでに高く感じてしまうのか。背景には購買力の低下がある。