カネを抱えて墓場には行けない!お金の「減らし方」こそが大事なワケ『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第12回は、「出口戦略」の重要性を学んでいく。

長期投資の「出口」をどう描くか?

「株ハ入口にアラズ 出口ニアリ」。投資部の初代主将が遺した格言に触れた主人公・財前孝史は、売り時をあらかじめ決めておく株式投資の「出口戦略」の重要性を再認識する。売り時を逃した投資デビュー戦の失敗を繰り返さないため、まずは投資の猛勉強をと決意した財前に、現主将の神代圭介は意外な言葉を投げかける。

 ギャンブルに勝つ秘訣は「勝っているうちに腰を上げる」だ。そこそこ勝ったらスッと抜ける、負けが込む前に引き揚げる。フットワークの心構えがないとズルズルと機を逸する。

 投資とギャンブルは本質的に別物だが、学校の運営費を稼ぐ道塾学園投資部は毎年、巨額のキャッシュフローを生む責務を負っている。腰を据えた長期投資ではなく、短期決戦のトレーディングが中心だと「投機」の色が濃くなり、求められる思考法や戦略はギャンブルに近くなる。出口戦略として「いくらになったら売るか」を決めておくフットワークが重要になる。

 長期投資の出口戦略はどう描くべきだろうか。コレという正解があるような話ではないが、「前提条件を決めておく」という手法はひとつのヒントになる。

 たとえばA社に投資する場合、「特定の新商品が伸びて成長が見込める」「競合するB社からシェアを奪える」「新社長の経営改革が成果を上げる」といった形で、自分が投資する理由を明文化しておく。その前提条件を満たさなくなったら、持ち株を売却する。

 出口のトリガーを、株価ではなく、ビジネスの状況にひも付けるわけだ。「長期投資だから」と自分を言い聞かせて値下がりした銘柄をグズグズ抱える塩漬けのリスクは減るし、ちょっと値上がりしたぐらいで浮足立つこともなくなる。

お金は「減らし方」が大事

漫画インベスターZ_2巻P95『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 究極の「出口」は、老後から逆算することだろう。経済コラムニストの大江英樹さんの近著のタイトルはずばり、『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』(光文社新書)。年金の受給が見えてくるころには、お金を貯めることではなく、「死ぬまでにどう使い切るか」もあわせて考えてみようと提案する。

 老後不安が根強いなか、減らし方こそ大事とは、逆張りの発想に聞こえる。だが、本書を読めば、墓場までは持っていけないはずのお金に振り回されることの虚しさが腑に落ちるだろう。老後のお金の使い方を考えておくことは、人生設計において資産形成と同じくらい大切だ。

「株の売り時」という点では、先般、私のYouTube「高井宏章のおカネの教室チャンネル」で対談した際に大江流の面白い実践法を教えてもらった。大江さんは、余裕資金はインデックスファンドに積立投資をしておいて、必要になった時に必要な額を現金化して使っているという。

「今の相場が高いか安いか、売り時かそうじゃないかなんて、わかりっこない」と達観して、「お金が要る時=売り時」と単純化しているそうだ。この手法には、ルールをシンプルにすることで心理的な負荷を小さくできるメリットもある。

 そのほか、お金を賢く減らすための知恵に関心のある方は、対談動画全編をぜひご覧いただきたい。

 さて、我らが主人公・財前はまたもや主将の神代から無理難題をぶつけられたようだ。神代は前回、「投資についてイチから謙虚に勉強しろ!」と告げた舌の根も乾かぬうちに、今度は「投資の勉強してもなんの意味もない。なぜなら……」「投資は勉強できないからだ」と言い放つ。「矛盾してますよ」と反発する財前に神代は、その矛盾を解き明かすまでは部室への出入りを禁止すると告げる。

 会社員ならパワハラ認定必至の無茶な宿題に、財前はどう答えるのか。

漫画インベスターZ_2巻P96『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ_2巻P97『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク