マツダの歴史そのものである
ロータリーエンジンを11年ぶりに復活

 もてぎスーパー耐久5時間レース決勝の2日前まで、筆者は広島のマツダ本社にいた。

 これまで何度も取材や個人旅行で訪れている広島だが、今回は特別な気持ちでマツダ本社の門をくぐった。

 マツダの本社工場は東西約7キロに及び、太田川沿いにある事務関連棟やデザイン部門が入る棟と、沿岸部の港に隣接する宇品(うじな)地域があり、その間を東洋大橋という私道がつないでいる。

 今回は23年6月に量産が始まったクロスオーバーSUV「MX-30 Rotary-EV」の組立ライン、電池パックのサブ組立ライン、そして新開発ロータリーエンジン「8C」の機械加工工程やエンジン組立工程を視察した。

新型ロータリーエンジン「8C」の組立ラインでの技術展示新型ロータリーエンジン「8C」の組立ラインでの技術展示 Photo by K.M.

 ロータリーエンジンは、ドイツのNSU社とバンケル社が1959年に実用化に向けた基礎技術を公開。これを受けて、マツダ(当時の東洋工業)はこれら2社と技術提携契約を結び、マツダ独自のロータリーエンジン開発を進めた。

 だが、一般的な内燃機関とは違い、おむすび型のローターが回転して動力を得る仕組みのロータリーエンジンは、量産化に向けてさまざまな課題があることが分かり、マツダがロータリーを初搭載した「コスモスポーツ」発売まで6年もの歳月を要している。

 その後、70年代前半にはマツダ総生産台数の約4割をロータリーエンジンが占めるまでになったが、第1次石油危機をきっかけとするマツダの経営危機により、ロータリーエンジンはスポーツカー向けなど生産数が限定されるようになる。

 91年のルマン24時間レースでの総合優勝、そして「RX-7」から「RX-8」を経て、ロータリーエンジンの新車向け量産は12年に終了していた。

 今回復活した新型ロータリーエンジン8Cは、モーター駆動のための発電機として使う。一般的には、シリーズハイブリッドと呼ばれる電動システムだ。

 RX-8に搭載されていた「13B RENESIS」が2ローターであるのに対して、8Cは1ローターで1ローター当たりの排気量が大きいのが特長だ。そのため、燃焼やオイルの循環など、マツダの真骨頂であるデジタル技術と実機を連動させるMBD(モデルベース開発)によって最適解を検証してきた。

 また、生産技術においては、これもマツダの真骨頂である、さまざまなモデルを同じ生産ラインで最終組立工程を行う、混流生産をさらに進化させた。「MX-30」のEVモデル用の電池と、Rotary-EV用のガソリンタンクと電池を融合したパッケージングを効率良く生産するサブラインを構築した。