日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、ベンチャー・キャピタル「アニマルスピリッツ」を立ち上げた元ミクシィCEOの朝倉祐介氏の対談が実現。「日本経済が復活するために足りないものとは?」「日本でスタートアップを盛り上げるにはどうすればいいか」「CFOに求められる資質とは」といったテーマについて、7回にわたってお届けする。(撮影/梅沢香織、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)

私たちは資本主義の限界にどう立ち向かえばいいのか

資本主義が抱える2つの大問題

朝倉祐介(以下、朝倉) 徳成さんは20年弱ぐらい前に、北村慶名義で本を書き始められ、そこからさらにCFOとしてさまざまなご経験を積んでいらっしゃると思います。その間にはリーマンショックや東日本大震災のような大きな出来事もありました。そういった経験を経て、20年前と今とでは、金融、あるいはCFOの仕事に対する考え方に変化はありますか?

徳成旨亮(以下、徳成) 金融の世界だけでなく、日本全体で見ても、いろいろなことがずいぶん変わったなと感じています。私が一会社員だった頃に比べて、今ははるかに人材の流動性が高まっていますよね。

 転職が当たり前になっていますし、高学歴と言われる大学の学生さんたちが、最初の就職先として大企業ではなく中小企業やスタートアップを選んだり、時には自分でベンチャー企業を起こしたり、というようなことも増えています。これは、20年前はほぼ考えられなかったことですよね。

 日本の最大の弱点は人材の流動性がないことだと私は思っていたのですが、その点では、いろんな意味でチャレンジを許す社会になっている。それこそアニマルスピリッツを発揮しやすい地合いにはなりつつあると思いますので、そこはもっともっと進んでいけばいいなと思っています。

朝倉 なるほど。加えてもう1つ伺いたいのですが。私自身は、どちらかというと資本主義や自由主義的なものの考え方に対して信任を持っているタイプの人間だと自認しています。けれども一方で、最近は資本主義の限界、みたいな言説が増えている。

 もちろんそういう言説は過去にもあったと思うんですけど、今はそういった言説が、貧富の差の拡大だとか気候変動問題だとかサステナビリティだとか、さまざまな観点から指摘されています。これに関して、徳成さんはどのように感じてらっしゃいますか?

徳成 2つ感じていることがありまして。1つは、今までなかったチャレンジ、つまり中国に代表されるような、国家がコントロールする経済体制が、自由や民主主義をベースとする経済に対する大きな対抗軸として生まれてきている。これはかつてとかなり違ってきていることですよね。

 しかもこの国家コントロール経済体制は、デジタルと相性がいい。デジタルなら国家による統制が効きますから。この経済体制のほうが、合議制で時間がかかるうえ、衆愚制になるリスクを抱える民主主義的プロセスよりも、効率的で無駄がないんですよね。

 象徴的な例でいうと、インド。僕が10年ぐらい前にインドに行ったとき、立派な五つ星ホテルに泊まったんですけど、窓から外を見下ろすと、その隣は貧民街といいますか、バラックが立ち並んでいる状態なんですね。国はそれを再開発したくて、「する、する」と言いながら、いまだに同じような状態なんです。

 でも国は、「一つひとつやっている」と言う。なぜならインドは民主主義国家だから、きちんと土地の権利とか確定させ、地権者の同意を得ながら地道に進めて行かざるを得ないので、どうしても時間がかかってしまう、そう言うのです。

 これが中国だったら、国が「ここを再開発する」と問答無用で立ち退かせて、1年後にはもうきれいな更地になってバーンと立派なビルが建っていたりするわけです。

 こういうアンチテーゼが出てきている、というのがまずは1つ、大きな違いとして挙げられると思います。

朝倉 ただ開発独裁や国家資本主義は、それはそれで別のゆがみを生みますよね。

徳成 おっしゃるとおりで、皆が皆、同じ方向しか向かないので、自分のやりたいこと、それこそアニマルスピリッツが生まれにくくなる。自分の頭で考えることが経済を進展させるとすると、国家コントロール的な経済体制は意外ともろいかもしれない。

 その観点からは、いずれ揺り戻しがくるのかなという気はしています。また、貧富の差の拡大も民主主義をベースとする資本主義だけの問題でもなく、中国でも社会問題化しつつある。

 そうした問題はありながらも、戦後の日本が当然と考えてきた「民主主義ベースの資本主義」とは違う形の、中国に代表される「専制的政治の下での資本主義」というものが世界経済において大きな地歩を占めるようになっている、というのは今日の流れの1つとして認識せざるを得ないと思います。

私たちは資本主義の限界にどう立ち向かえばいいのか朝倉祐介(あさくら・ゆうすけ) 
アニマルスピリッツ代表パートナー、シニフィアン株式会社共同代表。
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て現職。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。