「チームワークあふれる社会を創る」を理念に掲げるサイボウズは、個々人の働き方から事業戦略に至るまで、すべてを理念に照らして判断していく「理念経営2.0」型の企業だ。同社代表取締役である青野慶久さんは、佐宗邦威さんの『理念経営2.0』を読み、「会社にとって理念というものがなぜ必要で、どうつくり、どう使えばいいのかをここまで整理した本はない」「自分に欠けていた視点を補えた。辞書のように繰り返し使いたい一冊」と絶賛している。書籍刊行をきっかけに、青野さんと佐宗さんによる対談が実現した(第3回/全4回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。

全員の「やりたい!」を社内公開した結果、サイボウズで起きたこと

チームで理想を掲げるためのコツ

佐宗邦威(以下、佐宗) サイボウズさんの企業理念は「チームワークあふれる社会を創る」という存在意義(Purpose)と、存在意義の基盤となる4つの文化(Culture)で構成されていますよね。この4つの文化は、パーパスをブレークダウンしたものなんですよね。

青野慶久(以下、青野) そうなんです。「こういう文化が広がったら、世の中のチームは僕たちが目指している姿になるだろう」という思いが反映されています。どんなに高い利益を上げていても、みんなが青い顔をしながら働いているようなチームって、僕はいいとは思わないので、それがきちんと伝わるようにと考えています。

佐宗 それぞれの文化のなかでも、文化の1つめが「理想への共感」となっているのが気になります。これについてお聞かせいただけますか?

青野 これはまさに佐宗さんの『理念経営2.0』で語られている話ですよね。「理念経営1.0は」トップダウンで理念をもとに指示して組織が動くけれど、「理念経営2.0」では「みんなが理想に“共感”すること」が会社をドライブさせていくんですよね。

佐宗 はい、まさにそのとおりです。これまで15年以上「理念経営2.0」をやってきた青野さんは、チームで理想を掲げて行動するために、何が必要だと考えていらっしゃいますか?

青野 これも『理念経営2.0』と重なる部分も多いのですが、一つは「短期」にこだわらないことです。ロングスパンで理念を提示すると、共感できるものが変わってくるんですよね。たとえば、「グループウェアの次のバージョンはこうしよう」という話だけだと、「まあ、それはわかったけど、それがどうしたの?」という受け止められ方をしてしまう。なかなか共感されにくいわけです。でも、もっと長期的に実現していくような理想を掲げて「最終的にはこんな感じにしたいよね」という伝え方をしたほうが、みんなの共感を得やすい。その理想がすぐれていれば、直近の「次のバージョン」に対する思いなんかも、まったく違ったものになってくると思いますね。

佐宗 ロングスパンで提示するのは本当に重要ですね。

青野 それから、周りを巻き込める理想であることも重要ですよね。「僕は金持ちになりたいです。だから協力してください」というような、一人にしかメリットのない理想だと、周りの人も「知らんがな」と思ってしまって、共感されにくい。でも「みんなでお金持ちになろう」だったら、ちょっと協力しようかなと思う人も増えます。

さらに、その人の心の奥から出た、自分の魂からの声でなければ、周りもたぶん共感できないと思うんです。たとえば、隣の家に野球少年がいて、甲子園を目指していると知ったとします。それだけだったらピンと来ないんですが、朝から晩まで本当に一生懸命練習しているのを見た瞬間、「本当に甲子園に行きたいんだな」「何か協力できることはないかな」という具合に、人はやっぱり気持ちが動かされるんです。差し入れをしようかなとか、応援に行って声をかけてあげたいなとか思い始めるわけですね。

その真剣な想いが感じられなかったら、人の心は動かないんです。「甲子園に行きたい」と口では言っているけれど、この子は昨日も今日もだらだらしているなと思えば、人は応援なんかしません。魂の底から出てきた、これだけは絶対に譲れないという理念でないと、周りは共感してくれないですよね。

全員の「やりたい!」を社内公開した結果、サイボウズで起きたこと
青野慶久(あおの・よしひさ)
サイボウズ株式会社 代表取締役社長
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任。2018年1月代表取締役社長 兼 チームワーク総研所長(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『ちょいデキ!』(文春新書)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など。