科学はどこまで発達するのか――『2100年の科学ライフ』(NHK出版)は、現役の物理学者が世界中で300人以上の科学者にインタビューし、来る100年先までの未来生活を科学的に予測した現代版“予言の書”だ。著者のニューヨーク市立大学教授ミチオ・カク氏に、科学の進歩の可能性と限界について聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)
「第四の波」はナノテク、
バイオ、人工知能
ニューヨーク市立大学物理学部教授、専門は理論物理学。1947年カリフォルニア州生まれの日系3世。「ひもの場の理論」の創始者の一人。ディスカバリーチャンネルの科学番組に出演し、また科学解説書を著すなど、科学知識の普及活動に熱心。 Photo by Kazumoto Ohno
――“Physics of the Future”(邦訳『2100年の科学ライフ』(NHK出版)では、非常に興味深い予言が多く書かれていますが、その中で特に興味深いと思われるものをいくつか教えてください。
本書の中では<第四の波>について話しています。第一のイノベーションの波は蒸気エンジンで、そこから蒸気機関車ができ、産業革命が起こりました。第二の波は科学者、特に物理学者によって引き起こされましたが、電気、電磁力、自動車で、それは現代の始まりです。第三の波はレーザー、コンピューター、衛星など、いわゆるハイテク分野。そして第四の波は分子レベルで、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、それから人工知能です。
アメリカでは西暦1900年の平均寿命は49歳でしたが、その頃の長距離旅行といえば馬車が泥沼にはまり、長距離コミュニケーションと言えば窓を開けて叫ぶことでした。当時生きていた人が今の我々の生活を見たら、我々のことを魔術師と思うでしょうね。逆に、もし100年後の子孫に会うことができれば、我々は彼らを神様、ギリシャ神話の神々と思うことでしょう。ビーナスは完璧な肉体を持ち、不老不死でした。アポロは太陽の力を使うことができ、ゼウスは何でも好きな形に変えることができたのです。
いったん第四の波が来ると、ギリシャ神話の神々が備えていた力を、人間が持つことになります。生命や知能を操作し、物質を原子、分子レベルで操作することができるようになるのです。それは、ソロモンの知恵を持つことにほかなりません。