アイガモロボは、1台で1シーズン3~7反(1反=991.74平方メートル)ほどの田んぼを1~3枚処理できるという。すでに大手農機具メーカーから市販されており、1台の定価は50万1000円(税別)。「有機米の相場などから逆算すると、4~5年で償却できる価格設定にしました」(中村取締役)。

第1回:農業の変革「Agri X」は、「AgriTech」にとどまらない!新たなエコシステムを狙うベンチャー群の出現アイガモロボの発明者である有機米デザインの中村取締役(農業用機械開発 担当役員)東京農工大学内のベンチャーサポート施設内にあるオフィスにて

そもそも中村取締役はなぜ、アイガモロボを開発しようとしたのか。きっかけは11年の東日本大震災だった。大手自動車メーカーの技術者であった中村取締役は、震災を機に食料を自給できるすべを身に付けようと有機栽培の稲作の手伝いを始めた。そのときに、農家の人たちの切実な悩みとして聴かされ自ら体験したのが田植え直後の除草作業の大変さだった。12年、勇躍、開発を始めた。

しかし、アイデアは浮かぶがなかなか具体的な形にならず、ロボットとしても満足できるものには程遠かった。使える目処が見えてきた頃、 会社の広報部長が、「当社にはボランティアでこんなユニークな研究をしている社員がいます」と公式SNSなどで発信したところ、1000万ページビューを超える大反響となった。東京農工大学からは大学発ベンチャーの申し入れがあり、地方都市のまちづくりに取り組んでいるヤマガタデザイン(山中大介社長=現有機米デザイン社長)らとも組み、有機米デザインを設立してボランティアから本業へという大転身を決意した。

アイガモロボには、その駆動電池の設計など自動車技術者らしい工夫が随所に盛り込まれているが、そもそも有機米デザインは、その社名が示しているようにアイガモロボの製造・販売に特化した会社ではない。つまり「ロボットと有機米の栽培ノウハウと流通の三つで従来にないプラットフォームを構築すること」が狙いなのである。

「例えばロボットは、地元の子どもたちにはプログラミング教育の素材として使ってもらい、栽培ノウハウでは有機資源の循環活用策を探り、流通では有機米から造った特別な日本酒を開発するなど、一種のエコシステムの確立を目指しています」(中村取締役)

農業従事者の高齢化が進み、水田面積の減少も続く中で、栽培品の高付加価値化は重要な一策だ。有機JAS1等米 の60キログラム当たりの有機米デザイン買取価格は 約2万6500円で、一般米の約2倍。しかし日本における有機農業の耕地面積に占める割合はわずか0.6%にすぎない。(出所:農林水産省「令和3年における日本の有機農業の取組面積」(2023年9月7日))

農林水産省は「みどりの食料システム戦略」で、50年までに耕地面積に占める有機農業の割合を25%に拡大、100万ヘクタールにするという目標を掲げる。その期待を受けた新たなソリューションの構築が始まっている。