第1回:農業の変革「Agri X」は、「AgriTech」にとどまらない!新たなエコシステムを狙うベンチャー群の出現AGRISTの齋藤潤一CEO。米国・シリコンバレーでの仕事経験もあり、農業にビジネスとしての可能性の大きさを感じている 

AGRISTが注目されたきっかけがピーマンの自動収穫ロボット「L」である。Lは、アームに取り付けたカメラとAIにより、収穫すべきピーマンを判断し、腕を伸ばしてピーマンを切り取り、ロボット下部にある籠に入れる。籠がいっぱいになると、自動的にコンテナが置かれている場所に移動してピーマンを放出し、再度収穫に戻る。

開発したのは工業高等専門学校出身で、いわゆる「ロボコン(ロボットコンテスト)ボーイ」だった秦裕貴・代表取締役CTO。「L」には、一見なんでもないようなことだが、農業の現場の声を知り尽くした工夫が随所に盛り込まれている。「例えば、『L』は自力走行しますが、畑の土の上を移動するのではなく、ハウスの天井に張られたワイヤーにつり下がる形で移動します。こうすることで凸凹な農地を、バランスを取りながら走行する必要がなくなり、低コストで効率よく株間を移動できます」(秦CTO)。

第1回:農業の変革「Agri X」は、「AgriTech」にとどまらない!新たなエコシステムを狙うベンチャー群の出現ピーマン栽培のビニールハウス内で収穫作業を行う自動収穫ロボット「L」。株間は1m60㎝に設定され、その上に「L」がつり下げられて移動するワイヤーが設けられている

「果柄(かへい)の2回切り」も秀逸だ。果柄を切るいわゆるはさみの部分は、アーム内を周回する小さなベルトに取り付けられた丸刃である。 まずAIで収穫するピーマンの位置などを特定して腕を伸ばして果柄を切ると、それを握ったまま籠側に引いてくる際にもう1段下(実側)の果柄を切る。「ピーマン同士が当たって傷がつかないように、人手の収穫でも収穫後にもう一度果柄の切り詰め作業が必要ですが、その作業をロボットでも再現しました」(秦CTO)。

第1回:農業の変革「Agri X」は、「AgriTech」にとどまらない!新たなエコシステムを狙うベンチャー群の出現自動収穫ロボット「L」がピーマンを収穫する手順。「L」は画像で捉えられたピーマンのうち出荷基準に適合しているものを見定め、その位置で腕を出し、果柄を切る。腕を引くときに果柄の実側をもう一度切る「2回切り」を行い、籠に入れる。籠が満杯になるとコンテナのある場所まで自動的に移動してピーマンを放出する 

Lは、1分間に1個のペースで1日に20キログラム、年間では4~5トンのピーマンを収穫する。宮崎県のピーマンの生産量は年間2万7000トンほどなので、数量だけを見ればまだ微々たるものに見えるが、25年に予定している市場投入の見通しは明るいという。

「ピーマン一つ一つは軽いものですが、大規模農家ならば最盛期には1日に1トン以上も収穫します。ピーマンを入れたコンテナを畑の畝の間を移動させるだけでも大変な労力で、果柄の2回切りの手間も大きい。まずは補助ロボットとして活用してもらう一方で、AIの認識精度はどんどん上がるので効率も向上するでしょう」(秦CTO)