もっとも、これはデータの扱い方や統計の取り方の違いもあろう。

 経済産業省の『中小企業白書(2017年)』では、この起業から1年で93.5%、3年で88.1%、5年で81.7%の企業が生存――すなわち、存続しているとしている。

 とはいえ、実際に経営の舵取りを行っている経営者の肌感覚としては、1年でも2年でも、ただただ生き残ることに必死だろう。ましてや「成功した」として、すでに経営はゴールに達し、以降左うちわで安泰だなどと考えている経営者は、あまりいないのではないだろうか。

創業者のレールに乗るだけで
発展できるほど経営は甘くない

 そもそも創業から長い年月を重ねた企業というものは、創業者から経営のバトンを引き継いだ2代目、3代目という後進が、ヒト・カネ・モノという与えられた組織、会社での経営を都度、刷新しているからだろう。

 経営を引き継いだ後進が、単に創業者がこしらえたレールの上に乗っているだけで経営が成り立ち、発展していくほど、市場は甘いものではない。いわば経営者が代わる度に、第2、第3の起業を行っているからこそ、その寿命が延びているのだ。

 現在、創業72年を誇る吉岡興業に目をやると、その経営は、バブル経済真っ只中の時期、1989年に吉岡の子息へ、そして、その後のバブル崩壊、「失われた20年」の出口への光明が見え始めた2010年に同じく孫(2代目の子息)へと、3代に渡って引き継がれた。

 この3代目として、経営の采配を振るっているのが吉岡洋明だ。現在55歳、青春期に華やかなりしバブルを経験。バブル崩壊後の厳しい世相のなかで社会人としての経験を積んだ世代である。
 
 好況、不況と景気を問わず、いつの時代でも世間は、この洋明のような世襲経営者には、とかく厳しい見方を崩さないものだ。

 曰く、「創業者一族というだけでその地位に就いている」「何不自由なく育てられたお坊ちゃま」「高学歴だが仕事はできない」といった類である。

借金13億円、横領社員が跋扈……目を覆う惨状の家業を立て直した、三代目社長の「繊細で剛腕な経営術」吉岡洋明(よしおか ひろあき)
吉岡興業株式会社社長。関西学院大学経済学部卒。得意先企業で修行の後、吉岡興業に入社。以来、「大家族主義」の経営で、社業の発展に尽くしている Photo:K.Akiyama