160万部を突破した『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』など多くの著書がある公認会計士の山田真哉氏と、抜群の成績を誇る「ひふみ投信」ファンドマネジャーで、伸びる会社とダメな会社の見分け方を指南したベストセラー『スリッパの法則』で知られる藤野英人氏。独自の視点を持つ2人が、日本人の「お金」観を語る!

※今回の記事はジセダイ(星海社)のページでも読むことができます。

 

スリッパの人!と
呼ばれたことも(藤野)

藤野 今日は「さおだけvs.スリッパ対談」、どうぞよろしくお願いします(笑)。会計の本をたくさん出していらっしゃいますが、山田さんといえばやはり『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』ですよね。「さおだけの人」なんて言われたりしませんか?僕は昔『スリッパの法則』という本を書いたら、以来「スリッパの人」と言われることがあるんですよ。

藤野英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)1966年、富山県生まれ。1990年、早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、23年で延べ5000社、5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立し、現会社を創業、成長する日本株を組み入れる「ひふみ投信」を運用し、ファンドマネジャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。この「ひふみ投信」はR&Iが選定するファンド大賞2012の「最優秀ファンド賞」を受賞した。著書に『日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金よりも大切にしていること』(星海社新書)ほか多数。明治大学講師、東証アカデミーフェローも務める。
ひふみ投信:http://www.rheos.jp/ Twitterアカウント:twitter@fu4

山田 『さおだけ屋〜』は、日常の身近な疑問から会計の考え方を楽しく学んでもらおうと考えて書いた本だったんです。

 どんな商売でも「『売り上げ』から『費用』を引いたものが『利益』」「『利益』は企業が継続していくためには必要不可欠」という会計の原則があります。さおだけ屋が潰れない理由には「さおだけ屋は、実は売り上げが高い」「さおだけ屋は、実は仕入れの費用が低い」という2つの仮説が立てられます。この仮説を検証していくと……といったように、謎解きをしながら会計の本質をつかんでもらおうというわけです。

 実は、「さおだけ屋」は身近な事例の一つでしかないのですが、確かに「さおだけの人!」というイメージは強いみたいです(笑)。藤野さんの「スリッパの人」もかなりインパクトがありますね。

藤野 『スリッパの法則』は04年に書いた本なのですが、「社内でスリッパに履き替える会社に投資しても、儲からない」という法則を紹介したら、それが朝日新聞の「天声人語」で取り上げられたんです。もちろんスリッパに履き替える会社は絶対ダメだということではなくて、問題はスリッパに履き替えることに表れる「会社と家を同じようなものと考える悪しき家族主義」。
   私が伝えたかったのは「閉鎖的な会社になっていないかどうか注意する必要がある」ということだったのですが、「ウチの会社はスリッパを履いているが、ダメなのか」といった反発の声も寄せられるなど、予想外に大きな反響がありました。

山田 新刊『儲かる会社、つぶれる会社の法則』にも「スリッパの法則」が出ていましたね。

藤野 この本はいわば“スリッパの法則の最新版”です。時代の変化に対応して古びた法則は大きく見直していますが、スリッパの法則は変わっていません。

時価総額上位10社で役員の写真を
載せているのはたった1社!

山田 会計の世界では企業は継続することが大前提にあって、会社が継続するためには何が何でも「利益」が必要です。会計で考える「潰れない会社」は「利益」が出ている会社と言うこともできるんですが、藤野さんが考える「潰れない会社」とはいったいどんな会社ですか?

藤野 ちゃんと儲かる会社を見極めるための法則は、たくさんあるんです。会社に行かなくても判断できる例を一つ挙げると、時価総額上位200社の企業のウェブサイトで「社長と役員の写真が出ているところ」と「社長しか写真が載っていないところ」を比べると株価の差がすごいんですよ。役員の写真まで載せている会社のほうが過去10年間で株価が上がっていて、その差は劇的です。

 楽天、ヤフー、日揮、それから三菱商事や三井物産、伊藤忠などの総合商社もこの法則にあてはまります。業績を見るより、簡単に儲かる会社を見抜けるんじゃないかと思うほどですよ。ちなみに、時価総額上位10社で役員の写真をウェブサイトに載せているのは1社だけで、あとはNTTもNTTドコモもキヤノンも三菱UFJも、みんな社長だけしか載ってないんです。載せているたった1社はどこかというと、ソフトバンク。

山田 ソフトバンクですか、なるほど!しかし、この「役員の写真の有無」は何を示しているんでしょう?

藤野 おそらく、企業の「覚悟」や「勇気」、「透明性」が表れるポイントではないかと思います。写真を表に出すことは多少なりともリスクがありますよね。事なかれ主義の会社なら「社長くらいはしかたがないけれど、役員を出すのはやめておこう」となるでしょう。あるいは、役員の位置づけの違いかもしれません。役員が会社の経営に責任を負っているのか、それともただの“お飾り”なのか……。

山田 私は会計士として監査する立場で会社の中に入ることが多いのですが、確かに、役員と社長が侃々諤々の議論をしている会社もあれば、社長が役員をコマのように扱っている会社もあります。役員を大事なメンバーと考え、チームで経営しているんだと思っていれば、おのずと「役員の写真もウェブサイトに出そう」ということになるのかもしれませんね。

藤野 会社の良し悪しは素人の目線である程度判断できるものですし、その「素人目線」がものすごく大事なんです。なぜかというと、会社の価値を決めるのは素人だから。お客様って、別にプロじゃないんですよね。その意味で、企業の収益や株価ってわりと人間くさいところで決まっているものだと思います。投資やお金のことについて考える時は、数字だけを見るのではなく、株価やお金に対して人間的な部分を感じられるかどうかが投資家としてのレベルを左右するんです。