秀吉も承継を失敗した

その信長の後に天下人となった秀吉も、承継問題に関しては失敗に終わっています。なかなか子どもに恵まれなかった不運もありましたが、もっとやりようがあったとは思います。

織田家の承継問題を知るうえでは、『清洲会議』(三谷幸喜 著)が一番わかりやすいと思います。特に、信長死後の混乱した状況をつかむには最適です。

一方、豊臣家に関しては『豊臣家の人々』(司馬遼太郎 著)を読めば、秀吉晩年期から豊臣家が抱えていた問題を、さまざまな人物を通して見ることができます。

同じ司馬遼太郎作品で豊臣家を描いたものに『関ヶ原』『城塞』もあり、この3冊を読めば豊臣家の事業承継が、いかに失敗したかが見えてくるはずです。

歴史を学んで教訓にして
承継を成功した徳川家康

戦国武将の中で後継者選びに抜きん出ていたのは、なんといっても徳川家康です。

関西人の私はアンチ家康なのですが、この件については家康を全面的に認めます。家康も短気な性格の持ち主ではありましたが、歴史を学んで教訓にするしたたかさがありました。

家康は、信玄や信長の成功事例を真似しつつも、同じ轍てつを踏まないよう細心の注意を払い、完璧な模範解答を示しました。

武田家の失敗に学ぶ

家康は、信玄が最後まで跡とりを決めなかったことが武田家の崩壊につながったことを見抜き、早い時点で秀忠を後継に据えました。

「関ヶ原の戦い」に勝利した家康は、1603年には征夷大将軍の座につき江戸幕府を開くのですが、わずか2年後には秀忠に将軍職を譲っています。

この選択の大きなポイントは、徳川家が自らの意思によって徳川家の後継者にバトンタッチできるという実例を作ったことにあります。

徳川家康に学ぶ
オススメ歴史小説4選

事業承継を含め、徳川家康という人物を深く知りたいなら、なんといっても『徳川家康』(山岡荘八 著)を読むのがベストです。

『覇王の家』(司馬遼太郎太郎 著)も家康の人となりを知るうえで欠かせない作品だと思います。

そして、家康のしたたかさを敵側の視点から捉えているのが『真田太平記』(池波正太郎 著)です。『真田太平記』は家康アンチの立場で書かれており、この作品で描かれている家康は憎たらしいくらいに狡猾です。

そして、フィクションの要素が少々強いですが、とにかく面白いのが『影武者徳川家康』(隆慶一郎 著)です。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。