「利上げは経営者に『現状維持』許さない好機」デービット・アトキンソン氏が語る金利復活の“効能”Photo:PIXTA

日本銀行は今春にもマイナス金利を解除し、1990年代後半から断続的に続いてきた「金利ゼロの経済」がようやく終わる見通しだ。この30年余りのゼロ金利時代の日本経済をエコノミスト、その後は経営者として見てきたデービッド・アトキンソン氏は、「金利をゼロにしても企業は設備投資や賃金を増やさず利益を内部留保に積み上げただけ、結局、生産性も上がらず成長できなかった」と総括する。そして、「利上げは企業の現状維持が難しくなり、経営者にイノベーションを進めさせるプレッシャーをかけることになる」と「金利復活」の効能を語る。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

導入当初からゼロ金利政策には反対
生産性悪い企業も延命、新陳代謝起きず

――日本銀行の白川方明総裁時代の「包括緩和」や黒田東彦総裁時代の「異次元緩和」以降、続いてきたゼロ金利・マイナス金利が終わり、今年は金利が復活する見通しです。利上げをどう受け止めますか。

 ゼロ金利政策が導入された1990年代後半から2000年代の初めやリーマンショック後の2010年代は、消費者物価上昇率はゼロとかマイナス0~1%程度でした。ひどいデフレではないしインフレでもなく、実質金利もほぼゼロという状況でした。

 しかし22年春以降は、インフレ率は2%をずっと上回っており、実質金利はかなりのマイナスです。異常な緩和状態を続ける必要はありません。日本経済にとって金利は上げた方がいいことは間違いないでしょう。

 もともと1999年2月に最初にゼロ金利政策が行われた時から私は反対でした。当時は不良債権問題が金融危機につながり、落ち込んだ経済や物価をどう回復させるかが最大の課題でした。

 銀行の貸し出しが不良債権になるかどうかの最も端的な基準は、金利を払っているか、いないかです。しかし金利をゼロにすれば、銀行は預貯金利息も払わなくてもよく、逆ザヤにならないために経営が破たんしているような融資先の債権でも永遠に持つことができます。

 つまり、生産性の非常に低い企業を基本的には延命させてしまう。一方で預貯金を持っている人は、利息が付かないので個人消費などに悪影響がでます。その後の日本経済は当時、危惧したようなことになりました。

金利復活は「経営者へ『現状維持』を許さないプレッシャーになる」と効能を語るアトキンソン氏。次ページでは、金融緩和政策が日本経済や企業経営にもたらした悪影響や、金利復活時代に何をすべきかをアトキンソン氏に解説してもらった。