総予測2024#16Photo by Kuninobu Akutsu

日本銀行は金融政策の正常化に向けて歩みだしているように見える。ただ、超低金利に慣れ切った日本経済の金利耐性は低く、慎重に歩みを進めざるを得ない。特集『総予測2024』の本稿では、今後の物価動向や、YCC(イールドコントロール、長短金利操作)撤廃、マイナス金利解除の条件などについて、「金融政策は異次元緩和導入前の姿に戻れない」と語る、翁邦雄・京都大学公共政策大学院名誉フェローに聞いた。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

23年10月のYCC再柔軟化
金利政策の転換の意味持たなかった

――2023年10月31日の日本銀行のYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)再柔軟化をどう評価しますか。

 今回のYCCの柔軟化は、円安進行を強く意識したものだと思います。長期金利の厳格なコントロール維持は円安加速をもたらすため、放棄したのだと思います。

翁邦雄おきな・くにお/1974年東京大学経済学部卒業、83年米シカゴ大学大学院Ph.D.取得(経済学)。日本銀行入行後、金融研究所長などを歴任。現在、大妻女子大学特任教授・京都大学公共政策大学院名誉フェロー。 Photo by K.A.

 YCCは金利の固定相場制です。市場に追い込まれる形で変動相場制に移行すると相場が混乱します。その前に再柔軟化に踏み切ったのは適切だったと思います。

 しかし、長期金利が1%を大きく超える場合、国債市場に介入して長期金利の急騰を避けるという姿勢は崩しておらず、再柔軟化は金利政策の転換の意味合いを持っていません。これでは円安に歯止めをかけるという暗黙の目的達成には力不足です。実際、再柔軟化の発表後、円安は加速しました。

YCC再柔軟化は政策転換の意味をもたなかったがために、円安抑止という当初の目的を達することはできなかった。だが、2024年は日本銀行がYCC撤廃、マイナス金利解除という金融政策正常化に踏み出す公算は大きい。次ページ以降、そのための条件や“副作用”、そして、解除後の金融政策のあり方について聞いてゆく。