「手段の時代」から「目的の時代」へ――はじまった目的工学の取り組みをさまざまな形で紹介していく。『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーードラッカー、松下幸之助、稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』の第1章「利益や売上げは『ビジネスの目的』ではありません」を、順次公開している。

第4回では、「社会貢献」や「利他のこころ」が、現代の日本でもてはやされるようになった背景を探りながら、「企業が社会の役に立つ」ことの意味を考えます。

日本の転換期に
本気で社会貢献を目指した人たち

 このようにまぶしい人たちが世界のあちこちで同時多発的に現れてくるのは、「時代の節目」と呼ばれる、古い秩序から新しい秩序へと移行するタイミングがほとんどです。日本の場合、産業革命以降で言えば、明治維新前後、そして戦後から高度成長期にかけて、といった頃になるでしょう。

 戦後から高度成長期における「産業界のヒーロー」と言えば、経営の神様こと松下電器産業(現パナソニック)の松下幸之助さん、ソニーの井深大(いぶかまさる)さんと盛田昭夫さん、ホンダの本田宗一郎さんといった名前が挙がるのではないでしょうか。

 そのほかにも、20代や30代の世代の人たちにはなじみが薄いかもしれませんが、オムロン(当時立石電機)の立石一真(たていしかずま)さん、東芝を再建した石坂泰三さん、日本におけるコンピュータ産業の礎を築いたNECの小林宏治さんや富士通の岡田完二郎さんなども、いわゆる「戦後の日本を創った」ビジネス・リーダーです。

 彼らはみな、新しい市場、あるいは新しい産業を創造した人たちであり、そして志の人ならぬ、まさしく「目的(パーパス)の人」たちでした。

 たとえば、幸之助さんの有名な言葉に、「企業は社会の公器である。したがって、企業は社会とともに発展していかなければならない」というのがあります。そして、多くの発言にあるように、彼の目的(パーパス)は、地球環境、地域社会、そして全世界との「共存共栄」でした。

 井深さんの場合、かの有名な「東京通信工業(ソニーの前身)の設立趣意書」に書かれている、「日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動」「国民科学知識の実際的啓蒙活動」が、目的(パーパス)に当たるのではないでしょうか。

 また盛田さんは、亡くなられた翌年の2000年に発行された最後の著書『21世紀へ』のなかで、「(消費者、株主、社員を含め)ソニーと関係のあるすべての人を幸福にすること」であると語っています。

 宗一郎さんは、1954年の入社式で、次のように述べています。「わが社はオートバイならびにエンジンの生産をもって社会に奉仕することを目的とする。(中略)作って喜び、売って喜び、買って喜ぶ三点主義こそ、わが社存立の目的であり、社是でなければならない。この三つの喜びが完全に有機的に結合してこそ、生産意欲の昴揚と技術の向上が保障され、経営の発展が期待されるわけであり、そこに生産を通じて奉仕せんとするわが社存立の目的が存在する」。ちなみに、彼は「会社は個人の持ち物ではない」という考えの持ち主でもありました。

 もう一人、アメリカ企業の経営者ですが、ヒューレット・パッカードの共同創設者、故デイビット・パッカード氏を紹介させてください。彼は晩年、次のように語ったそうです。

「多くの人たちが、企業の存在理由は金儲けであると考えているだろうが、私が思うに、それは誤っている。その真の存在理由を見出すには、さらに深く考えなければならない。これを追求していくと、どうしても次の結論に至らざるをえない。人々が集まり、企業と呼ばれる機関として存在するのは、個々人がバラバラにやっていては成し遂げられないことを実現するためであり、社会に貢献するためなのである。陳腐に聞こえるかもしれないが、これが原点である」

 さすが「偉人」「ひとかどの人物」と呼ばれる人は私たち凡人と違う、と思われるかもしれません。ところが、人間には、だれにでも「だれかの役に立ちたい」「社会に貢献したい」という欲求が存在するのです。