全員巻き込んでビジョン・ミッションを作ったわけ

佐宗 2021年のビジョン・ミッションの改定プロジェクトでは、職員全員を巻き込んで進めましたよね。ああいったプロセスを取ろうと思ったのはなぜでしょうか?

小沼 株式会社は株主への価値提供が基盤ですが、NPOは社会に対する価値提供が中心に置かれている組織です。NPOの場合は社会の声を広く聞いて、さまざまなステークホルダーと認識を共有しながらビジョンを作ることが重要だと考えました。私たちにはすでにビジョン・ミッションを経営に活かしてきた経験もあったので、みんながしっくりくるものにしたいという思いもありました。だから職員はもちろん、留職者、国内外のNPO、企業の方々など、多くの人に話を聞きながら決めたんですよね。

佐宗 企業の経営者によっては「企業理念は自分で決めたい」という方もいます。でも、企業でも最近、従業員やその他のステークホルダーも巻き込みながら、「一緒につくっていこう」というスタンスをとるところも増えていますよね。誰に対して価値を生み出したいかは企業によって異なりますが、幅広いステークホルダーに価値を届けたい企業であれば、クロスフィールズのようなNPOに近いアプローチになってくるのでしょうね。

小沼 NPOは非常に民主主義的なんですよね。「世の中がこういうふうになるといいよね」という人々の気持ちを形にしていくためのエージェントとしてNPOはあると思うんです。それなのに、ビジョン・ミッションを自分たちだけで決めてしまうと、非常にプライベートなものになってしまう。「できるかぎり開かれた存在であり続けよう」という意識を持っていた方が、NPOは価値を生み出せると思っています。

佐宗 そうやってみんなで決めたのが「社会課題が解決され続ける世界」というビジョンと、「社会課題を自分事化する人を増やす」「課題の現場に資源をおくり、ともに解決策をつくる」というミッションでしたね。

小沼 以前のビジョン・ミッションには新規性やワクワク感がなくなり、何か着心地の悪い服を着続けているような気持ちになっていました。でもこの新しいビジョン・ミッションは非常にしっくりきていて、組織としてもアクセルを踏めた感があります。

【NPO代表に聞く】本当に「使える」ビジョン・ミッションの作り方
佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。著書に『理念経営2.0』のほか、ベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法』(いずれもダイヤモンド社)などがある。