戦略、営業、人事、資金調達…理念の活用先はさまざま

佐宗 実際に事業を行う上で、新ビジョン・ミッションはどう使ってらっしゃいますか?

小沼 最も活用しているのは、事業戦略を作るときですね。半年に一度、事業レビューと次の事業展開の議論をしますが、「ビジョン・ミッションから見たときに、自分たちは本当に正しい方向に進んでいるのだろうか?」と問いかけるようにしています。経営メンバーだけでなく、各事業部のリーダーとも議論し、その中身をフィードバックするようにしています。

佐宗 すばらしい! 事業戦略をレビューするときに、ビジョン・ミッションを使っているのですね。

小沼 NPOであっても当然、「事業をうまくいかせたい」「いちばん稼げる事業ポートフォリオで勝負したい」という欲がないわけではありません。しかし、何よりもまず優先するのは、事業をビジョン・ミッションに近づけることです。時には経済合理性を無視した経営判断を下すようなケースもあります。

佐宗 それ以外に理念を使うシーンはありますか?

小沼 あとはパートナー企業の選定や案件選択のときにも、ビジョン・ミッションを使っていますね。自分たちのありたい姿に直結しない仕事を引き受けないためです。

それから、最近は寄付金をいただくことが増えてきました。これもビジョン・ミッションを改定して、発信してきたおかげだと思います。

佐宗 なるほど、NPOならではの資金調達にも、今回の新しい理念が活用されているのですね。

小沼 まだ寄付を戦略的に獲得する事業運営に舵を切ったわけではありませんが、将来的には寄付をもっと積極的に活用していきたいと思っています。

「留職」という良くも悪くも強いビジネスモデルがあったので、これまでのクロスフィールズは「企業が求めること」を起点にして事業を展開する面がありました。ですが、寄付というかたちで資金をいただけるようになると、事業の発想も変わってきます。これまで以上に「ふつうの企業には取り組めないけれど社会的なニーズの強い事業領域」で挑戦していけるようになると思いますね。

佐宗 現代社会では、企業にも同様の発想が必要なのかもしれません。次の記事では、ひと足先に理念経営を始めた経営者としてのコツなどをお聞きしたいです。

(次に続く)

【NPO代表に聞く】本当に「使える」ビジョン・ミッションの作り方