米国は、民主主義という普遍的価値観を世界的規模に拡大する価値観外交を展開している。日本もウクライナ戦争では民主主義陣営のウクライナを支援し、権威主義的なロシアと対決するという姿勢をとってきた。

 しかし、この国連演説で岸田氏は、「イデオロギーや価値観で国際社会が分断されていては、これらの課題に対応できません」と明確に述べている。これは価値観外交からの訣別だ。この外交方針の転換を踏まえてウクライナ戦争への対処方針を練り直すと石井氏の言説になるのだ。

 もっとも誰がアメリカ大統領になろうとも、アメリカの影響力が国際的に低下する方向は変わらない。この空白から、新たな勢力均衡線が引き直される。日本を取り巻く環境を見ると、20年前と比較して中国、ロシア、韓国、北朝鮮が国力を強化したのに対して、アメリカと日本はそうならなかった。従って、引き直される勢力均衡線は日本にとって不利になる。

 この現実を冷静に見据えた上で、国益(そこには国家益、国民益双方の意味がある)の極大化を図らなくてはならない。