試合が進行していく中で、各所に回想シーンが挟まれる。そこで登場人物たちが掘り下げられることで、試合における1点1点にそれぞれ意味が生まれ、重みが持たされる。「バレー」という一つのテーマに向かって登場人物たちが各々の姿勢で取り組んでいくそれらのエピソードは、人の情熱や優しさ、苦しみを伝えていて、珠玉の手触りである。

 ハイキューは主人公と主人公チームだけでなく、対戦相手となるチームとそれを応援する人たちに至るまで描写が丁寧に行われるので、読者はその全員を応援したくなる心持ちにさせられるのだが、劇場版でもこれは健在であった。

 当然「主人公」は設定されているものの、単なる「主人公が活躍する物語」でなく、各登場人物がそれぞれの人生を主人公として生きていて、それらがより集まって一つの大きな物語を形成している印象のある原作『ハイキュー!!』の特徴を、劇場版は約90分という限られた尺の中で、うまく伝えていた。

 なお、上映時間は85分だが、普段上映中に「あと何分か」と終わりの時間を気にしがちな筆者が、時間をまったく気にすることなく駆け抜けるようにして鑑賞を終えることができたので、素晴らしく均衡の取れた密度と長さだったように思う。

原作のライバルが劇場版の主人公に
映画館で登場人物の心情を追体験

 以下、少し内容について触れるので、ネタバレを避けたい人はご注意願いたい。

 この劇場版の大きな特徴を一つ挙げるとするなら、原作主人公のライバル視点が多く描写されていて、劇場版では彼を主人公と呼んでよさそうな点である。つまり、原作と劇場版では主人公が違う。原作主人公ももちろん劇中でしっかり存在感を見せるのだが、観る人は主に劇場版主人公の心情に心を寄り添わせて物語を追うことになる。