価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

【アイデアを生みだす技術】アイデア本のバイブルが説く、「アイデアが生まれる原理」とは?Photo: Adobe Stock

アイデアが生まれる基本的な仕組み

 アイデアを生みだす、という一連の行為について解説したものとして、いちばん広く知られている書籍が、ジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)です。

 この本の原著の初版は、1940年。そこから途中改訂はしたものの、半世紀以上にもわたって売れつづけている超ロングセラーです。日本語版の初版は、1988年に発行されていて、日本においても広く知られた本となっています。

 これだけ長い時間を経ても、いまなお定番でありつづけるということは、アイデアについての普遍的な内容が書かれているということの証拠と考えていいでしょう。本としては薄くて1時間もかからず読み終わってしまうものですが、アイデアをつくりだす方法についての「真髄」が記されています。

アイデアを生みだす方法を公式化する

 著者のヤングは、広告代理店の仕事をする中で、新しいアイデアを「継続的に」生みだしつづける必要がありました。そのために、アイデアを生みだす方法を公式化しました。

アイデア作成は車の製造と同じように一定の過程があり、流れ作業である。その技術を修練することがアイデアマンになる秘訣である」とヤングは言っています。

 さらに、元来、私たち人間にはアイデアを生みだす才能があるとされていて、その才能を伸ばすには「アイデアが生まれる原理」と「アイデアを生みだす方法」について知る必要があると述べています。

アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ

 まずここではヤングの言う、「アイデアが生まれる原理」を見てみましょう。とてもシンプルなものです。

【アイデアが生まれる原理】
 1.アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ(コンビネーション)であること
 2.既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性を見つけ出す才能に依存するところが大きい

 ヤングの指摘するアイデアとは「既存の要素の新しい組み合わせ」以外の何ものでもない、ということです。

 私は、この本を初めて読んだときは、当たり前すぎることを言っているな、と思ってピンときませんでした。しかし、時間が経って考えれば考えるほど「真理を突いている」と感じます。

 これは、第1章で話してきたことともつながります。私が出会った優れたアーティストやクリエイターたちも、みんな過去の様々な事例を自分の中に「いいアイデアのサンプル」としてストックし、アーカイブ化しているという点です。

 素晴らしいアイデアを生みだしてきた人たちは、これまでに人々の共感を生みだした素晴らしい商品やサービスの要素、仕事以外での気づきや学びをアーカイブ化していて、それらを参考にしながら、誰も思いつかなかった組み合わせとして、結びつけることで新しいアイデアを生みだしているのです。

 ここで、ひとつ注意すべきことがあります。「既存の要素の組み合わせ」ということに対して、アイデアを「仕立て直す」「焼き直す」ことだと考える人が多い、ということです。過去の「いいアイデア」をなぞって少し変えただけの企画は、アイデアとは言えません。

 過去のいいアイデアを模倣して修正して、自分の企画にしてしまうのは、誰しもが通る道ではありますが、アイデアとは既存の要素の「新しい組み合わせ」であることを肝に銘じましょう。

 19世紀のフランスの数学者・理論物理学者、科学哲学者と様々な肩書を持つアンリ・ポアンカレは『科学と方法』(岩波文庫)の中で、豊かなアイデアに至るのに必要なのは、「美的直観」であると述べています。

「美的直観」とは、「これまで無関係と思われていたものの間に関係があることを発見すること」であり、「既存の要素の新しい組み合わせ」と、同様のことであると言っていいでしょう。

 その後、創造のプロセスについてモデルがいくつも発表されていますが、ベースとなる考え方は変わっていないように思います。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター

1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。