足元では、男性より女性の雇用者数が増えている。24年1月の役員を除く雇用者数は男性が3041万人で前年同月比+12万人、女性が2709万人で同+33万人であった(総務省「労働力調査」)。これに基づくと、23年1月には46.9%であった女性比率が、24年1月には47.1%まで0.2ポイント増加したことになる。

 片や、男女間の賃金格差は依然大きい。「きまって支給する現金給与額」は男性が37万6500円、女性が27万6300円である(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」22年6月実施)。つまり女性の賃金は男性よりも27%低い。

 この影響により、雇用者に占める女性の比率が上がると全体の平均賃金は押し下げられる。毎月勤労統計調査が報告する2.0%の賃金増には、この押し下げ効果が含まれている点に注意が必要だ。もっとも女性雇用者の増加は比率にすると限定的であったため、この押し下げ効果を試算すると0.06ポイント程度にとどまる。

 従って、女性比率の増加に伴って、賃金上昇が見掛け上低く見える効果は現時点では限定的だ。そのため、足元で大幅な賃金上昇が起こっていたとは考えにくい。

 他方、足元のインフレは徐々に落ち着き、実質賃金は改善の兆しを見せている。だが今後、毎月の賃金統計の数字だけを追うと、トレンドを見誤る可能性がある。その際、「労働者の構成変化がどれほど影響を与えているか」を頭の片隅に入れておくと、賃金の動向をより正確に把握できるだろう。

(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)