受刑者が「娑婆でも食べたい」と絶賛!大人気の“いかフライレモン風味”とは?写真提供=黒栁桂子

全国に約20名の法務省専門職「法務技官」(国家公務員)の管理栄養士である筆者。受刑者らとは同じ釜の飯を「作る」仲間、料理を教える先生と生徒、調子に乗った言動に説教する母親と息子として過ごしてきたという。本稿は、黒栁桂子『めざせ!ムショラン三ツ星』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

受刑者に大人気の
「いかフライレモン風味」とは

 刑務所で働き始め、私が初めて新しく取り入れたのがこのメニューだった。実は前職の学校栄養士時代の給食からのパクリである。

 学校では材料にみりんも入れていたが、隠れて飲もうとする輩がいるため刑務所では使えない。そんな事情から、刑務所用にレシピをアレンジしなければならなかった。

 ちなみに学校給食でのメニュー名は、「イカフライのレモン煮」だった。少しだけ表現を変えたのは、パクリという後ろめたさと、「煮」と言いながら実際には揚げてからタレをかけているので、「煮てないだろっ!」というつまらない反抗心から「煮」を「風味」に置き換えたのだ。

 ちなみにレモンだって業務用のレモン果汁を使っているため、果汁はわずか10パーセントのなんちゃってレモンである。だから、レモンといいながら実はあまりレモンではない「レモン風味」という表現がちょうどよいのだ。

 さて、この「イカフライのレモン煮」は西尾市の学校給食が始まりで、愛知県内では何度もテレビで取材されているほど有名。同市内の学校給食でダントツ1位の人気を誇る。これが出る日は出席率がよい、と噂されるほど生徒を引き寄せるのだ。

 なんでも過去には、給食時間の前に不良グループが配膳室に忍び込み、盗み食いしたという事件が発生したらしい。それ以来、配膳室は施錠されるようになったと聞いている(刑務所と同じやんか……)。

 まぁ、それほどまでに人気ということなのだ。地元にはお惣菜として売る店があったり、居酒屋メニューにもなったりしている。

 当時、中学2年生の学年主任だったT先生は、スリムなのに給食はいつも男子顔負けに大盛ご飯を食べるのが印象的だった。

 問題生徒が教室外でたむろしていると連絡を受けると、「行くよ!」と、複数の男性教師を引き連れて職員室を颯爽と出ていく姿は、頼れる姉御という感じだった。

 給食にイカフライのレモン煮が出た日は、不登校だったAちゃんに電話をかけ、「今日はあんたの好きなイカフライのレモン煮だよ。給食食べにおいでよ」と声をかけていた。