2023年秋のソフトバンクに続いて、24年に入って楽天グループも発行することがわかった「社債型種類株」。社債の性質を持った上場株式であり、企業の資金調達手段として注目を集める。果たして、どのような特徴をもった株式で、発行側と購入側にはどのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。『入門 社債のすべて』著者・土屋剛俊さんの寄稿をお届けする。

まるで「借金じゃない借金」?? ソフトBや楽天Gが発行する「社債型種類株」を社債投資家が解説社債型種類株とは?(写真はイメージです/Photo: Adobe Stock)

2024年以降、1.2兆円もの社債償還ラッシュを迎える楽天グループが、「社債型種類株」の発行を準備しているという。この「社債型種類株」という資金調達方法は、どのようなものなのか。本来、社債と株とは全く異なる資金調達方法であるはずなのに、「社債型種類株」という名称が頭を混乱させる。まるで「借金じゃない借金」とか「返さないとならない、返さなくていいお金」と言っているようである。今回はこの一見、相矛盾するような資金調達方法の特徴について考えてみたい。

そもそもの話として、社債は借金である。つまり負債、返さないといけないお金だ。そして企業の負債が増えると自己資本比率が下がって、信用リスクは高まり、倒産しやすくなるのである。

一方、株は資本である。返す必要のないお金だ。そして企業の資本が増えると自己資本比率が上がって、信用リスクは下がって倒産しにくくなる。

つまり、この「社債」「株」という二つの商品・調達方法は基本的な性格が全く異なり、同時に成立しえないはずだ。
では、「社債型種類株」というのはどちらに帰属する商品なのだろう。

その名の通り、「社債型種類株」とは「株」である。従って、本籍は株になる。
株は資本であり、資本の最重要要素は「償還期間がない」ということである。いつまでも返さなくて良いから、資本なのである。

そして、もう一つ決定的に重要な点は、株主総会において「議決権を有する」という点だ。企業の重要な経営方針を決めたり、取締役を選んだり解雇したりする権利がある。

株主は会社のオーナー、つまり株主の持ち物である。一方、社債保有者は単なる債権者でしかない。さらに株の重要なポイントは、会社の業績が向上すれば会社の価値が上がり、株価もどんどん上がっていく。そして業績が良くなれば、配当もどんどん増えていく可能性がある。しかし、株のマイナス点としては、業績が下がれば株価も下がり、最悪の場合、会社が倒産し、清算という事態になったら、残った財産は優先的に債権者に支払われる点だ。

もしすべての債権者に満額返済してそれでもお金が残った場合のみ、ようやく分配してもらえる。実際には、倒産する会社は債務超過になることがほとんどで、その場合は高い確率で株価はゼロ=紙くずになる。株というのは、こういったアップサイドのリスクとダウンサイドのリスクのバランスで成り立っているのである。

では社債型種類株の場合はどうだろう。
まず、社債型種類株には配当される額が決まっていて、基本的に業績に関係ない。つまり普通株のようなアップサイドはないし、価格も金利の変動によって債券価格が変動する程度の動きはあるが、基本的に固定である。さらに基本的に議決権がない。楽天グループが発行を検討している社債型種類株もそうである。

つまり、投資する側から見ると、株としての要素はほとんどないのである。強いていえば、確実に決まっている償還日がないくらいである。しかし、価格上昇余地もなく、議決権もなく、清算配当の順位も低いうえに、全く償還のあてがない、となると投資家を見つけるのが困難になる。このため、発行から一定の期間が過ぎたところで、会社がその株を買い戻すことができる、という条件をつける。これは確約ではない。確約すると、株とは認められないためだ。この買い戻す権利のことを「取得条項」といい、会社法でも取得条項付種類株の発行は認められている(会社法108条)。

したがって、一定の期間が過ぎたからといって確実にお金を返してもらえる保証はどこにもないのであるが、こういうことは資本市場においては極めて一般的に行われている。代表的な商品は、劣後債である。実務的には「一定期間が過ぎたら買い戻すかもしれない」という約束は紳士協定であって、「必ず買い戻す」のが実情である。その信頼を裏切ると、二度と同じような資金調達ができなくなるからだ。

次に「社債型種類株」を発行する側からみると、劣後債の発行とどこが違うのか。
劣後債の発行は基本的に借金であるから、取締役会の決定で発行できるが、社債型種類株は種類株の発行になるため、株主総会で決議しなければならない。さらに、種類株の発行には定款を変更するため、株主総会の特別決議が必要になる。これはかなりの手間となる。また、投資家に払うのは配当であるため、税金を払った後に出すことになり、合計のコストは社債の発行より高くなる。さらに社債型種類株の場合は、どんなに劣後債に性格が似ていようとも会計上は株式であるため、発行するとそれは資本であって、自己資本が増加する。

発行体からすると、自己資本は増えるし、議決権がないため、希薄化も発生しないというメリットがある。これらが発行体が面倒な手続きをし、高いコストを払ってまで得られるメリットである。

発行体にとってのメリットは投資家のデメリットとも言え、投資家からすると社債と株の悪いところ取りをしているようにも見える。
社債型種類株のデメリットを列挙してみよう。

 株と名前がついているが、普通株と違って基本的に値上がりしない
 株と名前がついているが、普通株と違って会社が成長しても配当は増えない
 株と名前がついているが、議決権がない
 いつまでもかえってこないかもしれない
 配当可能利益がなければ配当されない
 倒産した場合に戻ってくる順位が低い

これだけのデメリットがあるとすると、投資する価値のない不良品なのだろうか。企業における資金調達方法は様々であり、投資する側はリスク・リターンを考慮してリスクにみあったリターンが見込めるのであれば投資すればよいのである。

したがって投資家は、社債型種類株に投資する際は上記のようなリスクを補って余りあるだけのリターンはどれくらいなのか、つまり適正価格はいくらかといった点をきちんと検討する必要がある。