「忙しくて、毎日作れる気がしない」「1人分なんてコスパもタイパも悪い!」「キッチンが狭過ぎて、できる作業が限られる」「メニュー決めるのに一苦労」。自炊の悩みを挙げたらキリがないが、新生活で時短料理を知りたい人にオススメなのが『平野レミの自炊ごはん』。料理愛好家として長年活躍し続ける平野レミさん初の、1人分をテーマにした自炊本だ。「家にあるものばかりで作れる」「レミさん節が面白く、でも実用的」「こんなレシピ本を探していた!!」と話題になっている。いくつになっても自由で大胆、元気に料理を披露する秘密はどこにあるのか? 本稿では、料理家を見つめ続けてきた生活史研究家・阿古真理さんに解説してもらう。

こんな料理家は見たことがない! 平野レミのレシピが愛される本当の理由撮影・邑口京一郎

日本初の「料理愛好家」が誕生

 今を時めく平野レミが料理の世界にデビューしたのはおそらく、1982年4月10日号の『クロワッサン』(マガジンハウス)。その記事での肩書は「歌手」。何しろ彼女はシャンソン歌手として活躍していたからだ。料理愛好家としての本格的デビューは、1985年。5月に初のレシピ本『平野レミ・料理大会』(講談社)を出し、6月には『きょうの料理』(NHK)に出演していた。同番組では、その後大いに活躍して現在に至るが、平野が大人気になったきっかけは、2002年『BEST HIT TV』(テレビ朝日系)のコーナー「マシューケータリング」への出演。これを皮切りにバラエティ番組の料理コーナーに登場し、その後2015年4月17日放送の『金曜日のスマたちへ』(TBS系)が平野レミ特集を組み、大きな反響を呼んだ。それは奇しくも、1990年代の時短レシピブームを共に支えた小林カツ代が亡くなった年だった。

 1991年5月には、『きょうの料理』の「平野レミ・小林カツ代のおすすめスピード料理」と題した特集で出演。「牛肉のジージー焼き」「ごちゃ混ぜブランチ」といったレシピを紹介している。

 私は以前、同番組のテキスト発行60周年に際し、1年かけて全テキストに目を通し、「きょうの料理 60年を振り返る」と題した連載エッセイを書いたことがある。毎月5年×12冊を深く読み込む時間はさすがになかったが、同番組にレギュラー出演した平野が、90年代前半にぐんぐんレシピの質を上げていくさまは伝わってきた。こんなに速く成長した料理家は、他で見たことがない。

 テレビ的には、デビュー時の『きょうの料理』でトマトを手で握りつぶす映像や、パイナップルに料理を串で突き刺すといった、大胆な行動が目を引きがちだ。しかし、平野が作った料理を食べた人たちは、フォローするかのように「でも、レミさんの料理はすごくおいしい!」と語る。彼らの言い分が正しいことがわかり、同時に、ファンも多い大胆な発想に対する期待にも応えた最新刊が、『平野レミの自炊ごはん』(ダイヤモンド社)である。ここからが本稿の本題だ。