NPOで働くことが
普通になる時代がくる!

 僕はこれからの日本でも、このようなNPOでの体験をキャリアとしてとらえる企業や学生が増えてくるのではないか、と期待している。

 実際、優秀な学生が自己成長を目指す動きは、水面下で静かに増えつつある。僕はTFJを広めると同時に優秀な人材をリクルーティングするため、東大、京大、学芸大といった国立大学はもちろん、慶応、早稲田といった大学で説明会やセミナーを行っており、学生と話す機会も多い。僕がそこで出会う優秀な学生たち(まだほんのひと握りだが)は、もはや大手企業で働こうとは考えていない。

 リーマンショックや東日本大震災を経験し、東京電力や日本航空など一昔前には人気だった企業が崩れていくのを目の当たりにして、大企業だから安心だという考えはすでに古いと思っている。将来、生き残るためのキャリアに対して、常に危機感を持って行動しているのだ。そして、「社会にインパクトを与えたい」「世の中をよくしたい」そして「ワクワク仕事がしたい」と、安定よりも人生の目的や、仕事のやりがいを選択して、起業したりNPOを立ち上げる人も少なくない。

 採用する企業側にも変化がある。日本の大手企業は、「終身雇用を前提とした会社づくり」を土台として人を採用し、研修を行い、育ててきた。一昔前まではこの終身雇用の良い効果のほうが大きかった。

 しかし、企業の人事担当者の話を聞くと、彼らも現在の新卒採用というシステムに対して問題意識を持っているようだ。「即戦力が欲しい」「手とり足取り、教えている暇はない」、そして「卒業したばかりのひよっこでは、役に立たない」と言い切る人もいる。それを象徴するかのように、ここ数年、商社やIT企業を中心とした第2新卒枠も広まっている。

 だから、そこに、TFAのような自己成長を経験し、社会人としてのスキル以上のものを身につけた即戦力の人材を送り込めれば、お互いにWIN−WINの関係を築くことができるのではないかと思っている。

自分の足で立つ力を身につければ
怖いものは何もない!

 僕が接した将来に危機感を持つ優秀な人材たちは、大手企業に入り、企業の色にそまって、会社に寄りかかることをよしとしない。彼らが重視するのは、将来、どのような社会になっていても、自分の足で立っていられる力を身につけられるかどうかだ。

 アメリカでは短期間に自己成長できる職場として、NPOを選択することが一般的になっている。TFA以外にも、発展途上国の援助を目的に、若者が派遣されるプログラムを提供している団体「ピースコー」も就職ランキング上位の常連だ。

「お金」でなく、やりがいを重視して、ヒト、モノ、時間、すべてが足りない組織の中でどう効率を高めていくか、問題に直面し、自分なりにどう解決していくのかを必死で考える。そんな体験が成長を加速させるのだ。

 終身雇用が崩れ、自己成長の場としてNPOが注目を集める時代は、日本でもすぐそこまで来ている。それが僕の実感だ。

※この連載は書籍『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』を抜粋、再編集したものです。


なぜ優秀な人材が教師を目指すのか
松田悠介(まつだ・ゆうすけ)
全米で就職ランキング第1位になったティーチ・フォー・アメリカ(TFA)の日本版「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」創設代表者。大学卒業後、体育科教諭として中学校に勤務。体育を英語で教えるSports Englishのカリキュラムを立案。その後、千葉県市川市教育委員会教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、外資系コンサルティングファームPricewaterhouseCoopersにて人材戦略に従事し、2010年7月に退職、現在に至る。世界経済会議Global Shapers Community メンバー。経済産業省「キャリア教育の内容の充実と普及に関する調査委員会」委員。

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なぜ優秀な人材が教師を目指すのか

2010年、全米で就職ランキング1位。グーグル、アップル、ディズニー、マイクロソフトよりも働きたい理想の就職先、「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」。その日本版であるティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)を20代で立ち上げた、元・体育教師の起業奮戦記!!

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