先月末の3月31日付で、11年以上お世話になった国連を退職した。僕が共同創設者として米国で立ち上げたNPO法人コペルニクに本格的に専念するためだ。

シンプルなテクノロジーを途上国へ
コペルニクのビジネスモデルとは?

 コペルニクとは、途上国の最貧層の人たちの生活を改善するため、現地に根ざしたテクノロジーを届ける非営利団体だ。僕らが届けるテクノロジーは、ソーラーライトや、浄水器、燃料効率の良い調理用コンロ、太陽光で再充電できる補聴器など、誰でも簡単に利用できるシンプルなものばかり。家庭レベルで日々の生産性を一気に向上させ、彼らの経済的自立を支援している。

国連を辞めてまで、僕がNPOを立ち上げたワケコペルニクが途上国に届けているテクノロジーの一部。左から、回転式の水運搬器具「Qドラム」、太陽光で蓄電できる「ソーラーランタン」、口で吸うだけで浄水できる「ライフストロー」。ソーラーランタンは東日本大震災の被災地でも大活躍した。 (C)kopernik

 コペルニクの最大の特徴はビジネスモデルにある。「テクノロジーを持つ企業/大学」「寄付を行う支援者」「NGOなどの現地コーディネーター」、この3者をマッチングし、そのテクノロジーを本当に必要としている人に安価で届けるというものだ。コペルニクはそのプラットフォームとして世界中からテクノロジーと支援者を募ることで、創設からわずか2年で41のプロジェクトを成立させ、11ヵ国の6万3000人を支援した実績を上げることができた。

国連を辞めてまで、僕がNPOを立ち上げたワケコペルニクのビジネスモデル(左図)。企業、寄付者、現地NGOの3者をマッチングし、途上国の最貧層の人たちにテクノロジーを安価で届けている。日本語のウェブサイトも開設している(右図)。(C)kopernik

  僕がなぜこのような団体を立ち上げたかというと、それまでの国連スタッフとしてのキャリアの中で、「伝統的な途上国支援の枠組み」に限界を感じていたからだ。途上国の貧困層の人々に支援を直接届けたい、そしてその生活を劇的に改善したい。そのためには「今までにない、革新的な貧困削減の仕組み」をつくりあげなければならないと考え、僕は国連を辞め、コペルニクに賭ける決断をしたのである。

 しかし、それは簡単な決断ではなかった。なぜなら、僕にとって国連は、憧れの仕事だったから。高校時代に、明石康氏や緒方貞子氏が活躍していた国連という仕事について知って以来、将来は国連の仕事に就きたいとずっと思っていた。