では、なぜこのようなことがアップルは可能で、日本企業は不可能であったのか?

 そこに先ほど述べた「心」の問題が深く関わってくるのである。

 アップルがどうしてiPodに始まる独創的な商品群を生み出せたのか? それは、スティーブ・ジョブズ氏という超越した消費者感覚を持った社員(社長であったが社員でもあったのであえて「社員」と呼ばせていただく)の夢をアップルという会社が実現したからだろう。

 ジョブズ氏は既に世の中に存在していた音楽プレイヤー、携帯電話、モバイルパソコン、PDAのいずれにも満足せず、彼が創造した新しい端末で、音楽鑑賞、メール、電話、インターネット、読書などを行いたかったのではないだろうか。

 そして、重要なことは、このようなジョブズ氏の「夢」を現実にするためにアップルという会社組織が一丸となって取り組み、とうとうその夢を現実にしたということである。

リスクを避け、ポストにしがみつく
「心」の問題が引き起こす深刻な症状

 今の日本の大企業において、アップルで起きたような現象は極めて起きにくい。それは、先述した「心」の問題があるからだ。「組織的うつ病」にかかっているとも表現できる。

「組織的うつ病」という表現は、東京大学の藤本隆宏教授が使っているものだ。藤本教授は、日本の大企業の本社が、リスクのある国内向けの戦略投資を避けて、逃げの海外投資を除いて内部留保を続けている様を「組織的うつ病」と定義している。

 一方、筆者は藤本教授の定義を参考に、「組織的うつ病」をもう一歩踏み込んで定義付けしている。

 売り上げ・利益・シェアばかりを重視し、数字で見える成果のみを評価し、コンプライアンス・社内ルール・法律で社員を縛り、誰もが決めない会議ばかり開き、将来のリスクはなるべく避け、知らない人たちとの接触はなるべく避け、自分のポストがなくならないことを願う人たちが支配している組織のことだ。