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経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”

出来レースの温床となる懸念も。「かんぽの宿」売却で表面化した郵政民営化の問題点

町田 徹 [ジャーナリスト]
【第60回】 2009年1月16日
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 国民の財産だった「かんぽの宿」をオリックスグループにまとめて売却する計画が暗礁に乗り上げている。鳩山邦夫総務大臣が「李下に冠を正さず」「国民が出来レースと受け止める可能性がある」「今のところ私が納得する可能性は限りなくゼロに近い」との主張を展開し、日本郵政が求めた関連手続きの認可に難色を示しているからだ。

 このトラブルに賛否両論が湧き起こり騒ぎが大きくなる一方だが、両論がそろって見逃している大事なポイントがある。そのポイントとは、まず、今回のトラブルが起こるべくして起きたものだということだ。しかも、今回は、たまたま案件が大きかったために事態が表面化したが、これが珍しいケースでない疑いもある。つまり、「水面下では、こうした問題含みの案件が横行していたのに、監視の目が届かず、闇から闇に葬られていた疑いが強い」(総務省中堅幹部)というのだ。

 原因は、民営化の制度設計段階で、反対論を抑え込もうとして、民営化の大義、理念、基本哲学などをきちんと議論しなかったことにある。民営化による効率性の追求と、公共事業としての長所の温存が両立できるかのような誤解を与えておきながら、何も具体的な指針を決めず、民営化の実現だけを急いだ結果、今回のようなトラブルが避けられない宿命にあった。

 偶然だが、日本郵政は3月末に民営化の決定から3年経過後の民営化状況の点検・見直しの期限を迎える。もう一度、抜け落ちた制度設計の不備を洗い出し、国民のために役立つ民営化を再考するタイミングと言えそうだ。

トラブルの背景にある
総務省と日本郵政の不協和音

 「今のところ私が納得する可能性は限りなくゼロに近い」――。

 鳩山大臣は14日、記者団にこう語り、改めて日本郵政の「かんぽの宿」のオリックス不動産への一括売却を容認しない考えを表明した。日本郵政の西川善文社長を総務省に呼び、焦点の案件について説明を聞いた直後の発言で、案件が完全に暗礁に乗り上げたことが浮き彫りになった瞬間だった。

 今回、問題になっているのは、北海道から沖縄まで日本郵政が70ヵ所で展開している宿泊事業を一括して売却しようという会社売却の案件だ。この事業自体は、民営化の際に、「2012年9月までの譲渡・廃止」が法的に義務付けられていた案件である。好立地に低料金で利用できる施設も多く、高齢者を中心に根強いファンもいる。国営事業時代から採算の改善が進まず、民営化後も40億円前後の赤字を出す体質から脱却できていないため、日本郵政自体も売却が急務という立場を採っている。

 どれぐらいの資産価値があるのかというと、土地・建物などをあわせた簿価は123億円に達する。建物や関連設備は償却が進んでいるだろうから、当初の投資金額はもっと大きかったはずだ。ところが、借入金があるほか、最低1年は雇用を維持することなど売却に条件を付けたこともあり、2度にわたり27社もが参加する入札を行ったというが、応札額が簿価を上回ったところは1社もなかった。オリックス不動産(オリックスの100%子会社)の109億円が最高応札額だったというのだ。

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町田徹 [ジャーナリスト]

1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。日本経済新聞社に入社後、記者としてリクルート事件など数々のスクープを連発。日経時代に米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。同社を退社後、雑誌「選択」編集者を経て独立。日興コーディアルグループの粉飾決算をスクープして、06年度の「雑誌ジャーナリズム賞 大賞」を受賞。「日本郵政-解き放たれた「巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など著書多数。


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