アマゾンKindleの端末各種が昨秋に発売され、いよいよ日本でも電子書籍が当たり前の選択肢になってきた。いわゆる“再販制度”は、「物」ではなく情報である電子書籍には適用されないという公正取引委員会の見解もあり、商品として紙の本とはまったくの別物。ところがそんな電子書籍でも、コンテンツ流通の裏側で“取次”が大きな役割を果たしている。
電子書籍取次として、凸版印刷系のビットウェイ、大日本印刷系のモバイルブック・ジェーピーと並んで3社の一角を占めるメディアドゥ。出版社と電子書店との橋渡しがその主たる業務内容だ。
出版社が提供する書籍コンテンツをさまざまなプラットフォームに合わせて配信し、電子書店に対しては出版社との交渉/支払いの代行や、販売管理/課金決済システムの提供などを行っている。取引先出版社は600社以上にもなるが、コミックスに強く、キャリア公式コンテンツ・サイトの同カテゴリでは20%がメディアドゥのストアシステムを導入しているという。
では、電子書籍における“取次”の役割とは何なのだろうか?
「電子書籍と言っても結局はn対n、つまり多数と多数を結ぶ取引です。コンビニの新規開店に例えてみましょう。オーナーさんは元々酒屋なので固定客はいる。だけどコンビニならスイーツも雑誌も置かねばならない。どこで仕入れるかも、どう陳列するかも、何が売れ筋かもわからない。店舗独自に発注から売上管理までやろうとしても途方に暮れてしまいます。そこで緻密なデータを元にサポートをするフランチャイザーに相当する取次が必要になるわけです。インフラについても同様です。出版社からコンテンツを預かる上では強固なシステムとネットワーク、タイムリーなレポーティングが必要ですが、そのコンテンツ配信環境を電子書店が個別に準備することは、コストと時間に大きな投資を強いられてしまいます」(同社取締役事業統括本部長溝口敦氏)
たとえば電子書籍配信サービス「LINEマンガ」で考えてみよう。LINEで使える「スタンプ付きマンガ」で話題をさらった同ストアは、今年4月のスタート時点で3万タイトルの作品を揃え、提供元の出版社は50社を超える。その数字を見るからにも、ストア運営に付随する作業はとうていLINE自体が簡単に行えるものではないことがうかがい知れる。ならば、専門の業者に任せた方が効率的ということだ。メディアドゥは、LINEマンガへのコンテンツ供給を一手に引き受けるとともに、ビューアシステムのエンジンも提供している。
さらに電子書籍では、いかに集客するかも課題になる。紙の書籍の委託販売制度には、全国津々浦々の書店をショールームとして利用できる効用もあった。どの書店にもある程度充実した品揃えがあるため、ぶらりと訪れた書店で思いがけない本に出会うことが、消費者の購入行動に結びついてきた。
しかし電子書籍では、そうした偶然の出会いは期待できない。アマゾンのレコメンドに見られるように、電子書店が販売する作品タイトルへと消費者を誘導する仕組みが鍵となるのだ。
そこにメディアドゥならではの強みがあるという。同社のコンテンツ取次業務は配信システム「md-dc」と、ストアシステム「MDCMS」(電子書店専用CMS)の二本柱に支えられているが、その「MDCMS」こそ同業他社にはないもので、店舗の立ち上げから、集客支援、アフィリエイト連携まで運営のためのノウハウが詰まった便利なツールなのだ。
そんなメディアドゥは、元々は「着うた」などの音楽事業に携わっていたが、そこで培った配信システムや顧客網を生かして数年前に電子出版に参入した。
日本の出版業界にはアマゾンやGoogleを黒船とみて萎縮する傾向が多々見られる。そんな中、大手の”スキマ”にビジネスチャンスを見いだして参入し、主要な電子書籍配信プラットフォームの一角を占めるようになったメディアドゥの戦略は、ビジネスモデルとして大いに参考になるはずだ。
(待兼音二郎/5時から作家塾(R))