社会や組織が大きく変化するとき、そこでは何が起こっているのか。本当に強固なリーダーやカリスマという救世主によって、世界は変わるのだろうか。連載第13回は、歴史上の革命や企業の組織変革から、変化の生まれる「臨界点」の秘密について考える。
歴史は一度しか起こらない、
やっかいな教科書か
歴史から教訓を得ようとする際に、決まって議論になることがあります。
「同じことは二度と起こらないのだから、歴史に学ぶ行為は無意味では?」
この見方を支持する科学者は実は少なくありません。コロンビア大学の社会学部教授で、書籍『偶然の科学』(早川書房)を書いたダンカン・ワッツは、「気まぐれな教師としての歴史」という章を書いています。
なぜ、モナ・リザが世界で最も著名な女性の肖像になったのか。ちなみにルーブル・美術館に来場する年間600万人の中で約8割程度がモナ・リザを目的に来場するとルーブルの職員は想定しているそうです。
同様にハリー・ポッターはなぜ世界的なベストセラーになったのか?
21世紀の現代で、モナ・リザとまったく同じ技法で女性の肖像画を描いても、モナ・リザと同じような名声を博すことはできないでしょう。これは2013年にハリー・ポッターと同じようなファンタジー小説を書いても、評判にならないことと同じです。
歴史を外形、つまり形やスタイルだけ学ぶならば、ほとんど意味をなさないことがわかります。また、ダンカン・ワッツは特別な偉人は、活躍する前、名を成す前には予測できず、結果を出した人が「必然」になるような、特殊なストーリーが残りやすいと指摘しています。