日本銀行の「量的・質的金融緩和」は資産の入れ替え、ポートフォリオリバランス効果を期待する政策だ。
4月6日号の本欄で、10年国債利回りは貸出金利から下方に乖離し過ぎると上昇しやすいと指摘した。4月5日に0.315%まで低下した10年国債利回りは、その後上昇傾向に転じ、5月23日には1%をつけた。
国債利回りが低過ぎれば、国債より株式や不動産への投資、あるいは貸し出しに資金を回すほうがよいとの思惑、ポートフォリオリバランス効果が働いた結果だろう。日銀が円安を最重要視するとの見解が広がり、円安と株高の同時進行の中、「長期金利の低位安定が必要なくなった」との声が増えたことも長期金利上昇に一役買った。
しかし、再度銀行の新規貸出金利(長期)に注目すれば3月時点で0.932%であり、10年国債利回り1%はこれを上回る。貸し出しが本格的に増加しているのであれば問題にならないが、現時点では貸し出しが大きく増えつつあるとのデータは見られない。
アベノミクス効果で実際に企業が設備投資を増やし、借り入れ需要が増加すると期待するのだとしても、少なくとも6月に発表される成長戦略を見極めてからの話であろう。過去数年の為替市場の大きな変動をよりどころとした企業のグローバル化の流れも容易には変わりにくく、成長戦略そのものが踏み込み不足と認識されれば、企業の国内投資もどこまで増えるかわからない。
長期金利が相当に低いのであれば、金融機関が優良な貸出先を探す動きが活発化すると思われるが、10年国債利回りが貸出金利を上回るようであれば、貸し出しに優先して債券投資を行うインセンティブも高まると予想される。国債利回りが上がり過ぎればポートフォリオリバランスは起こりにくい。