アベノミクスの成長戦略にも
盛り込まれる「GNI」
アベノミクスのなかでしばしば出てくるのは、GNI(Gross National Income:国民総所得)という概念である。1人当たりGNIを10年で150万円増やす、という目標が政府の成長戦略のなかに盛り込まれている。
経済成長を論じるとき、これまではGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)という概念が使われていた。これをGNIに置き換えたということは、成長戦略の意味を考えるうえでも重要な意味を持っている。
GDPとは、国内で生産される付加価値の総額のことである。経済成長率は、通常、このGDPの実質の伸び率のことを意味する。たとえば、2013年第1四半期(1月~3月)の経済成長率は4.1%であった。これは年率換算して、日本のGDPが実質4.1%で伸びたということを意味する。
ところが、同じ時期のGNIの伸び率は2.3%にすぎない。GDPの成長率ほどにはGNIが成長していないことがわかる。
「生産」ではなく
「支出」が重要なわけ
GNIは、国内総生産であるGDPに、2つの要素を加えて計算される。ひとつは、海外の投資収益であり、もうひとつは交易条件の変化である。
海外の投資収益とは、海外から流入した収益から、海外に流出した収益を引いたネットの額である。日本国内の生産活動でなくても、海外への投資から得られる収益は国民の所得となる。日本は海外に膨大な投資を行ってきた。そうした投資からの収益を多く確保することは、日本国民にとっての利益となる。この部分がGDPには含まれていないが、GNIには含まれているのだ。
GNIのもうひとつの重要な要素は、交易条件の変化である。一般の人には「交易条件」という概念はなじみがないかもしれない。これは、日本が海外と貿易するときの輸出と輸入の交換比率を表したものである。
単純化して言えば、輸出財の価格と輸入財の価格の比率のようなものである。交易条件がよくなるというのは、日本からの輸出財が高く評価される、あるいは輸入財が安くなることを意味する。
現実の世界では、輸出される財やサービスにも、輸入される財やサービスにも、いろいろなものが含まれている。そこで交易条件は、輸出財物価指数と輸入財物価指数の変化の差で表される。輸出財物価指数のほうが輸入財物価指数よりも高くなっているときは、それだけ日本の交易条件は改善していることになる。逆に輸入財物価指数のほうが高くなっているときには、交易条件は悪化していることになる。
GNIとは、日本の国民がどれだけの支出レベルを確保できるかという所得概念である。日本が海外から輸入する原油や食料品が安くなるほど、日本の実質所得は高くなると考えられる。一方で、日本から輸出される製品の価格が海外で高く評価されれば、それだけ日本の所得水準は高くなる。交易条件がGNIの重要な要素となるのだ。