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伊藤元重の新・日本経済「創造的破壊」論

【最終回】
アベノミクスの成長戦略でカギを握るのは、
供給サイドではなく需要サイドの活性化

伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授]
【第57回(最終回)】 2014年4月28日
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需要サイドの重要性

 昨年、大胆な金融緩和策と機動的な財政政策によって、アベノミクスは想定以上の好スタートを切った。その成果が大きかったことは、株価、為替レート、物価上昇率、失業率や有効求人倍率などの雇用指標など、どれをとっても明らかだ。

 問題は、この好スタートを持続的な経済再生につなげることができるかどうかである。政府による財政政策や金融政策によるカンフル剤的な刺激は有効ではあるが、それにずっと依存することは不可能だ。最終的には、民間の需要が持続的に拡大し、そして供給能力が向上していくことが求められる。

 そこでアベノミクスの第三の矢に注目が集まる。第三の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」である。この表現に注目してほしいが、「民間投資を喚起する」という部分は需要サイドを想定しており、「成長戦略」の部分は供給サイドの改革を連想させる。これまでも本連載で何度か指摘してきたように、これから数年の日本経済が持続的に拡大していくかどうかを占ううえで、需要サイドに注目しなくてはならない。

 世間の議論の多くは、第三の矢を規制緩和や市場開放に結びつけている。「岩盤のような規制にドリルで穴をあける」といった言い方がされるように、供給サイドの改革に注目が集まるのだ。

 もちろん供給サイドの改革は重要である。それがないかぎり技術革新は生まれないし、生産性の持続的な上昇を実現することもできない。人口減少という大きなハンデを負っている日本経済にとって、供給サイドの改革抜きに将来の繁栄の絵を描くことはできないのだ。

 しかし、供給サイドの改革が経済に影響を及ぼすためには、それなりに時間がかかる。農業改革、医薬品の流通におけるICT(情報通信技術)の活用、労働市場改革などは、いずれも重要な政策課題である。しかし、こうした政策が日本経済に活力をもたらすためにはある程度の時間が必要だ。これらによって今年や来年の日本経済が見違えるようによくなるわけではない。

 当面、日本経済の再生のカギを握るのは需要サイドである。個人消費、設備投資、輸出という需要が拡大するかどうかである。供給サイドの政策は、もちろん需要サイドにも影響を及ぼす。政府が改革に熱心に取り組む姿勢を見せれば、それを見て民間企業も設備投資を拡大すると思われるからだ。「民間投資を喚起する成長戦略」という表現には、供給サイドでの改革が需要サイドにも影響を及ぼす、という意味が込められている。

 いずれにしても、今の局面で日本再生のカギを握っているのは民間部門である。政府がいくら努力しても、民間部門が動かなければ経済は活性化しない。逆にいえば、政策に多少問題があっても、民間部門が活力を持てば、日本経済は成長を続けるはずだ。

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伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授]

いとう もとしげ/1951年静岡県生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授。安倍政権の経済財政諮問会議議員。経済学博士。専門は国際経済学、ミクロ経済学。ビジネスの現場を歩き、生きた経済を理論的観点も踏まえて分析する「ウォーキング・エコノミスト」として知られる。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーターなどメディアでも活躍中。著書に最新刊『日本経済を創造的に破壊せよ!』(ダイヤモンド社)等多数がある。


伊藤元重の新・日本経済「創造的破壊」論

「アベノミクス」によって大きく動き始めた日本経済。いまだ期待が先行するなか、真に実体経済を回復するためになすべき「創造」と「破壊」とは? 安倍政権の経済財政諮問会議議員を務める著者が、日本経済の進むべき道を明快に説く! 

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