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山崎元のマネー経済の歩き方

マネジャーストラクチャーは甘くない

山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
【第25回】 2008年3月25日
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 日本版政府系ファンドの検討チームの座長を務める、山本有二前金融担当相のインタビュー記事(ロイター・2008年2月27日)を見て、マネジャーストラクチャーのことを思い出した。マネジャーストラクチャーとは、年金運用の世界でよく使う言葉で、主に複数の運用機関を使って資産運用を行なう場合の、運用者の選択や資金配分、管理の方法などを総称する概念だ。

 山本氏は現在検討中の日本版政府系ファンドの具体像につき、「外債、外貨、株式、オルタナティブなどにポートフォリオを分けて、そのなかで10社くらいに発注して競争してもらう」と述べている。資金委託の最小単位は2000億円くらいのようだ。

 金融マンの立場で見ると、大きなビジネスチャンスに思わず舌なめずりしそうなところだが、獲物(カモ)を狙う前に、一国民の立場でも物事を考えてみてほしい。政府系ファンドは、マネジャーストラクチャーをうまく構築することができるだろうか。

 マネジャーストラクチャーでいちばん重要なことは「全体」の管理だ。特に、全体のリスクの大きさと内容をどうコントロールするかが問題だ。政府系ファンドのような資金では、単年度で最大どれだけの損失が発生しうるか国民に伝えられることが重要だ。10社に委託したとして、10社のいずれもが実質的に同方向のポジション(たとえばドル安)に賭け、これがいっせいにはずれたような場合に、どのくらいの損が出るのか。

 日本の年金運用の初期段階では、多くの年金基金が運用機関に資産配分計画の裁量を持たせるバランス型の運用を委託したが、運用機関の取るリスクが同方向に傾いて大きなリスクになることもあれば、運用機関同士が反対方向のリスクを取ってリスクが相殺されるようなこともあり、全体を基金自身が管理できない状況に陥った。リスクが相殺される場合はいいと思うかもしれないが、半数の運用機関が日本株を売り、半数の運用機関が日本株を買う、というようなことが起こると、基金にとって効果はゼロなのに、取引コストだけが余計にかかる。結局、全体のリスクをコントロールし、相殺売買のコストを避けるために、資産配分計画を年金基金側が決定して、個々の資産について外部の運用機関を使う特化型と呼ばれる委託形態が主流となった。

 山本氏の政府系ファンド構想ではオルタナティブ運用も使うようだし、株式についても今風にロング・ショート的な運用を行なう可能性もあり、適切なマネジャーストラクチャーを組むのは非常に難しい。どうするつもりなのか。

 また、全体のリスクとコストの管理はマネジャーストラクチャーの初歩であって、個々の運用を理解・解析したうえで適切に組み合わせて運用計画を策定することがこの先に必要なのだ。

 個々のファンドにどれだけのリスクの大きさと裁量を任せるかにもよるが、大きな資金の運用では、運用計画を決め、マネジャーストラクチャーを決めた段階で、運用パフォーマンスの大半(年金運用の場合9割程度)が決定される。筆者は、不要である(民間でできることは民間で。資金は民間に還せ)ことと、管理面がうまくいかないと考えられることから、日本版政府系ファンドの設立には反対だが、万一これをつくる場合には、個々の運用機関以上に運用を理解したスタッフが必要だ。「プロ中のプロ」を使えば大丈夫だと無邪気に考えている「素人中の素人」にはとても任せられないと思うが、読者の皆さんはどう思われるか。

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山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。


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