元ヤンキー社員が
ドイツ語で学会発表

藤沢 せっかくなので、もう一つ、事例を紹介したいと思います。愛知県豊橋市にある「樹研工業」という会社をご存じですか。

松田 いえ。不勉強で、すいません。何の会社ですか。

藤沢 プラスチック加工の会社です。同社は採用が先着順で、一番早く会社に来た人を合格させるユニークな会社ですが…。

松田 え、採用が先着順?

藤沢 そうなんです。でも、注目したいのは、「世界一をつくろう」という会社の目標です。同社の製品は世界で高く評価されていて、ヨーロッパからメルセデス・ベンツやスウォッチの人が視察にやってきます。社員のみなさんも世界を相手にしているという意識が強いから、なかにはドイツ語を勉強して学会発表している方もいる。

 じつはこの会社の社員さんは玉子屋さんと同じく元やんちゃな人も多く、いまでも駐車場にはそれ風の車が停まっていたりするんです。公道で走ると注目を浴びちゃうような(笑)

松田 そんな人がドイツ語を操る…。

藤沢 そうそう。中身は人一倍向上心が強いビジネスマンなんですね。働く目的とか哲学が、人を育てるんです。

松田 その話、すごく共感します。僕はハーバードに留学するために、英語を死に物狂いで勉強しました。必死になって勉強できたのも、いつか自分で理想の学校をつくりたいというビジョンができて、そのために必要な知識をハーバードで身につけようと思ったから。目標ができると、人って頑張れますよね。

チームの能力を最大化する
「サーバント・リーダーシップ」とは?

9割の日本人が間違っている<br />「リーダーシップ」の本質松田悠介(まつだ・ゆうすけ)
全米で就職ランキング第1位になったティーチ・フォー・アメリカ(TFA)の日本版「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」
創設代表者。1983年生まれ。
大学卒業後、体育科教諭として中学校に勤務。体育を英語で教えるSports Englishのカリキュラムを立案。その後、千葉県市川市教育委員会 教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、
外資系コンサルティングファームPricewaterhouseCoopers にて人材戦略に従事し、2010年7月に退職、現在に至る。世界経済会議Global Shapers Community メンバー。経済産業省「キャリア教育の内容の充実と普及に関する調査委員会」委員。

松田 社員がいきいきと働いている会社って、他に何か共通点がありますか?

藤沢 社長にリーダーシップがあるということでしょうか。リーダーシップといっても、いわゆる「俺についてこい」的なリーダーシップではありません。群れを率いるリーダーというより、チームを機能させるためのリーダーといったほうが近い。

松田 チームが最大のパフォーマンスをあげられるように尽くすリーターシップのことを、「サーバント・リーダーシップ」といいますよね。

藤沢 そう、それです。日本ではなぜか自分が先頭に立って引っ張るタイプが優秀なリーダーだと思われていて、メンバー一人一人の力を引き出すためにサポートするタイプのリーダーがあまり評価されません。

松田 ウイリアム斉藤さんが、日本はみんなが同じ行動をする「集団行動」は得意だが、それぞれが固有の能力を発揮して全体として機能する「チーム活動」は苦手だとおっしゃっていました。サーバント・リーダーシップが日本で評価されにくいのも、日本ではチーム活動より集団行動が重視されているからかもしれませんね。

藤沢 中小企業のある社長は、「従業員は一人一人個性がある。不要な人は一人もいない。社員が何色に光るのかを見つけ出して、それぞれに輝く場を提供してあげることが経営者の役割だ」と力説していました。人は一人一人違うという認識を持っていれば、自ずとサーバントリーダーになるはずですが、日本ではまだ少数派かもしれません。