なぜグローバル人材の中身が
誤解されているのか

松田 これからリーダーシップを持った人やグローバル人材が活躍する時代になることは間違いないと思いますが、どうして日本では、的外れなリーダーシップ教育、グローバル教育になってしまうのでしょうか。

誤解だらけの「グローバル人材」論藤沢久美(ふじさわ・くみ)
国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。99年同社を世界的格付け会社に売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。03年社会起業家フォーラム設立、副代表。07年ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。法政大学大学院客員教授、情報通信審議会委員など公職も多数兼務。 NHK教育テレビ「21世紀ビジネス塾」のキャスターを3年間務め、その間、全国の中小企業やベンチャー企業の取材を行ってきた。同時に、様々なテレビ・ラジオ・雑誌等を通じて、これまでに1000社を超える全国各地の全国の元気な企業の経営者のインタビューと現場の取材を行い、各種メディアや講演を通じて発信している。

藤沢 輸入の仕方を間違えたのでしょう。日本は外国のものを取り入れることが得意なはず。だけど、最近は表面をマネるばかりで、本質的なところを置き去りにしているケースが目立ちます。

 たとえば欧米の経営手法もそう。向こうが3ヵ月決算をやっているというと、それを取り入れて、四半期ごとに利益を出そうと躍起になっています。

松田 最近では、コンプライアンスもそうですよね。みんななぜコンプライアンスが必要なのか、よくわかっていないまま、社内で「これはコンプライアンス違反じゃないか」と議論している。なぜこの規則が必要か、というよりも、まず「規則を守る」ことが重要といったような…。

藤沢 もっとも、これは日本ばかりの問題ではありません。発展した国では、どこでも多かれ少なかれノウハウ偏重の傾向があります。ノウハウを学ぶことに熱心でも、ノウハウが生まれてきた背景まで見ていないというか……。

松田 よくわかります。たとえばですが、私はリーダーシップは場数を踏まないと身につかないものだと思っていますが、日本だと座学でノウハウを学べばできる、と思っている人が少なからずいる。

藤沢 某鉄道会社の方に聞いた話です。研修で「信号が赤なら止まる、黄色なら徐行」と教えていたんだそうです。それで「信号が消えていたときは」という質問に、研修を受けた人から「教えられてないので、どうすればいいのかわからない」とクレームがきたそうです。

松田 マニュアル人間の典型ですね。

藤沢 困ったその会社は、なぜこのルールができたのかという経緯を含めた根っこの部分をマニュアルに書くようにしたそうです。すると、想定外のことが起きたときもパニックにならず、自分で考えて答えを見つけるようになったとか。

 いま日本に足りないのは、表面ではなく、一段深いところで考える姿勢です。それができていれば、リーダーシップやグローバル人材についての理解もうわべだけのものにならなかったはずです。

“高福祉の国”は一面に過ぎない
デンマークは自己責任社会!?

松田 表面だけを取り入れる傾向は、教育の分野でも見られます。フィンランドの教育がすごいと話題になったら、文科省の人や教育評論家の方々がどんどん視察にいって、「あれはいい」と言っていました。本当は、文化的な背景や歴史的な経緯を踏まえて評価しなければいけないのに……。

藤沢 そうですよね。私もデンマークに行って驚いたことがあります。デンマークは誰でも老いたら無料で養老院に入れる高福祉の国なんです。でも、実際は甘い国ではなくて、幼稚園から徹底した自己責任教育が行われていて、人の頼ってミスした子どもに対して「自分のせいよ」と教えたりしています。

 そのようなベースがあるから、デンマーク国民はギリギリのところまで自分の足で立つ意識が強く、それでも立てない人だけがセーフティネットに頼ります。そうすることで、高福祉の財源の膨張を抑えることができるわけで、自己責任論と高福祉はワンセット。高福祉という片側だけしか見ていないと、間違った形で理解することになりかねません。

松田 逆もそうです。アメリカは自己責任の競争社会と言われていますが、一方で成功者はNPOなどの活動に多額の寄付をする文化もあります。そこに目を向けないで、アメリカでは自由競争が当たり前だというのも乱暴な気がします。

 そういう意味でいうと、一部だけを切り出して「あの国のやり方は素晴らしい」というのは間違いで、もっと全体をとらえなくてはいけない。日本は、表面だけを吸収しようとして、かえって混乱している印象です。違う絵のジクゾーパズルからピースを集めてきて無理やりつなげているようなもので、どこかで歪みが出てきます。まずは日本としてどのような絵を描くのか、明確にしていくといいのでは…。